カテゴリ:ことばと文字
あす1月27日に 「新常用漢字表 (仮称)」 の試案が、文部科学省の文化審議会国語分科会にかけられる。
191字を常用漢字として追加する案。1月17日の各紙に報道された。 試案は、1月29日の文化審議会総会で了承されたあと一般からの意見公募があるので、そのころ配信コラムに意見を書こうと思っているが、きょうはそのエッセンスを少々。 * 現代生活で、一般人が 「常用漢字表」 を意識することはほとんどないだろう。 さいきんは、「辿る」 とか 「犇く」 のような文字さえ、へいきで電車の吊り広告に使われたりしている。 (ちなみに 「たどる」 「ひしめく」 です。) 手書きではまず使わないであろう漢字さえ、パソコンで変換できたからというだけのことで大衆社会にまぎれこむ。 制約として意識されるのはむしろ、JISの文字コードのほう。 JIS第1水準・第2水準に入っていない漢字はブログやメールでは文字化けしがちだ。 律儀に常用漢字表を参考にしているのは、官公庁その他の公的機関や新聞のみだろう。 虫唾(むしず)が走るような 「まぜ書き熟語」 を世の中にふりまいているのは、官公庁と新聞だ。 常用漢字表の改定を待たずに、「ら致」とか「破たん」のような書き方はほぼ一掃され、「拉致」 「破綻」 と書かれるようになった。 そうなった今、あらためて 「日本人がら致された」 をパッと見ると、 「にほんじんがら いたされた」 と読んでしまいませんか。 「銀行が破たんだよ」 も 「ぎんこうが やぶたんだよ」(?) と読みそうになる。 「まぜ書き熟語」 がいかに日本語にマッチしないかの証しだ。 * さいきん激増している 「まぜ書き熟語」 のチャンピオンは 「障がい者」 だ。 もともと 「障碍者」 で 「しょうがいしゃ」 と読んでいたのに、当用漢字表の導入に伴って 「障害者」 と字を替えた。 そしたら今頃になって、不自由に苦しむひとの呼称に 「害」 の字をつかっては差別を助長しかねないからと 「障がい者」 と書く方式が広まりつつある。 60年以上前の当用漢字表導入時に掛け違えたボタンなのだから、「障害者」 が嫌なら 「障碍者」 に戻せばよいのである。 ところが官公庁や病院では 「障碍者」 と書きにくい。 「碍」 の字が、常用漢字でも人名用漢字でも表外漢字字体表の印刷標準字体でもないからだ。 しかし 「碍」 の字はJIS第1水準の字だから、日本語を扱うすべての機器で打てる。事務上まったく障碍にならない。 新常用漢字表にぜひ 「碍」 の字を加えてほしい。 「障碍者」 「障碍物競走」 「碍子(がいし)」 「融通無碍(ゆうづうむげ)」 のように、使い道はある。 官公庁が 「障碍者」 を使い出せば、あっというまに目が慣れて、またたく間に広まるだろう。 * 「癌」 という字も、常用漢字・人名用漢字でないから、病院などで 「胃がん患者」 「抗がん剤」 「細胞ががん化する」 のような文字表現を見る。 「癌」 の字を手書きできないまでも、 「胃癌患者」「抗癌剤」「細胞が癌化する」 が読めない日本人は少数派だろう。 「癌」 の字ももちろんJIS第1水準の文字。新常用漢字表に加えてほしい。 「斡旋」 も、「あっ旋」と書かれることが多かった。 平成16年9月に 「斡」 が人名用漢字に追加されたからか、最近は 「あっ旋」 という書き方が少なくなったようだが、この際 新常用漢字表にも加えてしまってはどうか。 同じく官庁用語に 「急きょ」 というのがある。 「急遽」 の 「遽」 が常用漢字・人名用漢字でないからなのだが、この字も新常用漢字に加えたい。 「碍」 「癌」 「斡」 「遽」 の4字を加える代わりに試案上の4字を落とすとすれば、 「曖」 「昧」 「瑠」 「璃」 の4字だ。 いずれもすでに人名用漢字。 「曖昧」 「三昧」 「無知蒙昧」 「瑠璃」 のような文藝熟語向きの漢字であって、官公庁の 「まぜ書き熟語」 退治には役立たない。 * 批判ばかりでは申し訳ないので、今回の試案への褒め言葉を少々。 何がうれしかったといって、「填」 の字が入ったのがよかった。 それも、つくりが 「真」 ではなく 「眞」 のかたちで。 (残念ながら「土+眞」はJIS第3水準なので、ブログ上で使うと 「塡」 のように文字化けする。) これが新常用漢字表に入れば、 「充てんする」 「保険のてん補率」 「損失を補てんする」 のような読みにくい文字表現も改善され 「充填する」 「保険の填補率」 「損失を補填する」 のように書かれはじめることだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Jan 26, 2009 11:58:09 PM
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