カテゴリ:美術館・画廊メモ
≪マルセル・デュシャンの時代は終わりました。現在のアーティストは、絶えず変化する現実のなかで進化しています。
<中略> アートとはつまり「ある個人がこの世界にどう反応するか」ということで、結果としてアートはきわめて政治的になります。(ロレンツォ・ルドルフ)≫ (186頁) 「アート」とは何か、という青い問いにパシッと答えてみせることが、現代の藝術談義には欠かせない。 ≪私がアートを定義するとすれば「世界との新たな関わり方を生み出す活動」かな。 現代アートが嫌いな人は、自分たちが常識だと確信していることを覆されたくないのです。そういう人は、世界がどう動くのか前もって知っていると信じている。 ところがアート作品は、私たちを取り巻く世界のはかなさを示してくれます。そういう既成概念を壊すのがアーティストですからね。 私はアート作品を前にしているとき、なぜこの作品に心が動かされるのか考えるようにしています。それこそが、人が感じることのできる最も繊細で高度な感覚です。 (ニコラ・ブリオー)≫ (298頁) このニコラ・ブリオーさんの定義のほうが、ぼくには納得感あり。 ≪現代アートを追いかけるということは、同時代を生きるということであり、会社で機械のように働かされて失った自由を買い戻す行為でもある。 画一的になるいっぽうの社会で若者たちは、ほかの人との差別化をはかる最後の砦としてアートをとらえている。 <中略> 新しい世代にはふたつの欲望がある。自分がユニークな個性の持ち主であることを主張したい欲望と、承認欲求を満たすことのできるグループに所属したいという欲望だ。≫ (225頁) アートコレクターもまた「失った自由を買い戻す」ためにアート作品を買っているよな。コレクターとしてのぼくは確実に「ほかの人との差別化をはかる最後の砦」としてアート作品を買っていたな。 「承認欲求」というのもだいじなキーワードだ。銀座ビジネス英語gym でも、学習者の「承認欲求」に寄り添うことが大切だ。 ダニエル・グラネ/カトリーヌ・ラムール著 『巨大化する現代アートビジネス』 (紀伊国屋書店、平成27年刊) 作家かつ実業家のジョゼ・フレッシュ氏いわく 「アーティストと企業家はいずれも冒険家であり、リスクを恐れません」 「有名アーティストはブランドにすぎない」。 ≪アーティストと企業家はどちらも、グローバル化した世界で消費者に働きかけること、作品または工業製品の付加価値を高めることを責務とし、原価が販売額とはなんの関係もないのも同じである。 商品を認めてもらうために、PRやマーケティングに頼ることが必要なのも共通している。 ブランドを維持し、販促に努め、さらには作品のシリーズ化など普及に向けた取り組みも、一般企業に似ているという。 この傾向はアートへの投機熱によって加速しているとも言えるだろう。≫ (211頁) 去年(平成27年)の秋、美樂舎の月例会で、ニューヨークのアートシーンは俺が熟知しているぞみたいな天狗氏が招かれて講演したのだが、いわく「イーゼル ペインティングはもう古い」。ぼくは、アート様式に古いも新しいもないだろ、と大反発した。絵画作品を切り刻んで 3D にしたら感動が増すわけでもないし、飛び出す絵本がふつうの絵本より感銘を与えるわけでもなかろう。 そしたら本書にこんな一節があった。 ≪(コレクターのボブ・カル氏によれば) フランスはアート市場で大変な遅れをとりました。そうなったのも1970年ごろからのコンセプチュアルアート運動に影響を受け、絵画は終わったとして、それを強制したからです。 公立の美術学校でもつい最近まで学生たちに「絵を描いて時間を無駄にするな」などと教えていました。これは馬鹿げています。 デッサンは人間にとってプリミティブなアートです。 それに、昔からずっと、競売で値がつくのは絵画なのです。≫ (272頁) ≪(フランスの)国立美術館の学藝員は、かつでとは逆に同胞より国外の新進アーティスト、とくにアメリカ人を優先しているとも言われた。そうしてインスタレーションや映像作品など、新しい形のアートばかりを購入した結果、長く絵画が排除されたのではないであろうか。そのことが、ここ10年、絵画がふたたび勢いづいてきた国際市場でフランスが足をすくわれた理由にならないだろうか。≫ (273頁) ははぁ、なんのことはない。「絵画は古い」などと、誤った新旧論をふりかざしたさきの天狗氏は、周回遅れの大馬鹿だったわけだ。 産経新聞社の色が濃いばかりに産経以外の日本のメディアが無視してかかる「高松宮殿下記念世界文化賞」について本書は ≪アート界のノーベル賞と言われる≫ と紹介し、≪毎年、栄えある5人の受賞者に選ばれることは、アーティストにとって国際的にその才能を認められたことを意味する。賞金は1,500万円だ。≫と述べる。 『巨大化する現代アートビジネス』は、ぼくのアート界への見方をゆさぶり、柔軟にしてくれる良書だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Aug 15, 2016 02:45:34 PM
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