マスＰ文庫

「おはようございまーす。ご注文のサビレ蟹三十匹を持ってまいりました。」
配達員が城の料理長に愛想よく挨拶をしながら厨房に入って来た。
「おお待ってたぞ、ご苦労。お前キジトラ猫じゃないか？いつもの黒猫の配達員と違うな。もっともいつもの奴は無愛想で乱暴だからお前の方がずっといい。今度からお前をよこす様にお前の大将に言っとこう。」
料理長は上機嫌で品物を受け取ると代金を渡した。
「ありがとうございます。またよろしくお願いしまーす。」
そう言って配達員は厨房を後にした。

兵士は薄暗い廊下を重たい鎧を引きずるようにしながら歩いていた。すると反対側からも同じような兵士が近づいて来るのが見えた。その兵士は腰に掛けた剣の柄に片腕を乗せて、奇妙に手首を動かした。
廊下の中央で向かい合った兵士は周りを見回すと小声で何事か話すと尖塔に続く階段を上り始めた。

コータッツ王は尖塔の密室で何やらしこしこと手を動かしていた。彼の指先には竹でできた人形が握られていた。コータッツは部屋の片隅に積み上げられていた竹の端材を組み合わせて器用に人形を作っているのだ。
その時部屋を塞ぐ重たい鉄扉がギシッと音を立てて重々しく開いた。どうやら食事の時刻らしい。部屋の高い壁の最上部にわずかに設けられた小さな窓から差し込む光で、今が昼なのか夜なのかが分かる程度で、時刻は陽の差し込み具合で察するしかなかった。

扉が開き重たい鎧をガシャガシャとけたたましく鳴らしながら二人の兵士が入って来て出口の脇の両壁を背に立った。先ほどの大柄な兵士に打って変わり今度はやけに小柄な兵士に交代したものだ。その後から白猫の給仕の女性が昼食の盆を抱えてつかつかとコータッツの前までやって来て、「コータッツ様お食事をお持ちしました。」と丁寧に言った。
「ほほう、君はなかなか愛そうがいいね？いいのかね兵隊さんに叱られるんじゃないかね？」
と言って彼は出口で見張る兵士に目をやった。
ところが驚いた事にその兵士はコクリとうなずいた。
その白猫の給仕はにこりと笑いこう言った。
「コータッツ様。今日は特別なサビレ蟹のお料理をいたしました。召し上がる前に甲羅を丁寧に取り除いて下さいね？」
そう言って彼女はもう一度ニコリと笑うと部屋を後にして、その後を追うように二人の警備兵が部屋を出て、再び鉄扉が重々しい音を立てながら閉じられた。

「クロンうまくいったわね？」
「ああヒーナ、まったくだ。オリンもご苦労さま。」
「俺たちも何か役に立ててうれしいよ。」
「お前たちもなかなかやるじゃないか？おじさんが北の国から君たちを応援によこしてくれて本当に助かるよ。こういった役はヒト族にはできないからな。アクダイの奴はこういう仕事をヒト属であろう者がやるべきではないと思っていやがるからな。俺たちバンブーの仲間にはネコ族は少ないから、やって来たそうそうすまないけど手伝ってもらったんだ。」
そう言ってクロンはほほ笑んだ。

「おお、これは？」
コータッツは給仕の女性の何か含むような言い方が気になり、サビレ蟹の甲羅を丁寧に取り除いた。甲羅を取り除くと蟹の白く透き通った身がプリプリと踊るようにあふれ出てきた。
彼は最近としては珍しい御馳走に目を細めて、甲羅を脇に置いた。
そして、甲羅の裏側に何やら文字が書かれているのに気づいたのだ。
 
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