お寺の鐘に十字架のワケ 27年ぶり帰島でよみがえる記憶「俺たちが小さかったんだな」
2021/5/23(日) 7:31配信 沖縄タイムス 1954年から6年間、沖縄県の伊是名島のほぼ中心の小高い丘の上にあった伊是名聖霊教会。そこに、島民に時を知らせる時鐘があった。教会の閉鎖後、鐘は沖縄本島の別の教会に移されたが、村諸見在住の高良孝太郎さん(73)らの働き掛けで、懐かしの鐘がこのほど、島に帰ってきた。 伊是名聖霊教会は、当時村長だった故伊礼徹さんが敗戦で打ちひしがれた村民を奮い立たせるために誘致し、東京の聖アンデレ教会の主任牧師だった野瀬秀敏司祭が志願して島へ渡った。 当時ほとんどの家庭にはまだ時計がなく、教会の集会時間を知らせる手段もなかったため、廃寺になったお寺から鐘(梵鐘(ぼんしょう))を譲り受けた東京の聖アンデレ教会が、島に寄贈した。 釣り鐘に真ちゅうの十字架を張り付けたとても珍しい組み合わせのこの鐘は、毎日の午前6時、正午、午後6時、日曜日の午前10時半がくるたびに、3回鳴らした後、一定のリズムで9回鳴らす独特の方法で島民に時を知らせた。 教会が閉鎖されると建物は郵便局、電話通信、歯科診療所などに利用されて喜ばれた。鐘は伊是名村内のふれあい民俗館に保管されていたが、1994年に首里聖アンデレ教会の完成に合わせ、伊是名村が寄贈した。 沖縄本島の教会で長年、牧師として活動し、定年後に島へ戻った高良さんは「あの思い出の鐘を島に戻せないか」と、首里聖アンデレ教会に相談。高良さんの兄で、名護市在住の高良孝誠さん(88)らの協力の下、27年ぶりに鐘が里帰りを果たした。 孝太郎さんの同級生らは、「もっと大きかったんじゃないか」「俺たちが小さかったんだな」「柱によじ登って鐘を鳴らし、牧師に追っ掛けられて怒られた」などと少年のような笑顔で思い出話に花を咲かせた。 前田政義村長は「年越しの除夜の鐘が島に響いていたことをよく覚えている。しっかりと管理していきたい」と話した。 年越しや時を告げる鐘が再び鳴り響けば、村民や観光客にとっても、島の名物になりそうだ。(比嘉靖通信員)伊是名島(日本の島へ行こう)