お姉さんの看病が一段落して、東京から豊橋に帰って一週間ほどしたころ、突然、金子の就職先がきまります。
就職先は、名古屋の健康第一会という会社です。
政府から補助を受けて運営している会社で、工場に働きに出ている女工の健康のため、種々のニュースを冊子にして配布したり、全国の工場に健康にまつわる講演会、音楽会を開催しています。
社長の村田千吉が、金子が高女時代、作文が優秀で三年を通じて10点満点だったことや、音楽が好きなことを知り、ぜひ、うちに来てくれと、迎え入れてくれたのです。
村田社長の家に下宿させてもらうことも決まり、あわただしく金子は家を離れます。
社長の村田は、父が軍の獣医だった頃の知り合いで、60過ぎ。いくつかのビジネスも手掛ける温厚な人物でした。
金子は職場で、編集部員として原稿を書くだけでなく、ピアニストの小股久の音楽会の手伝いもまかされます。
金子は、この幸運を逃したりはしません。小股に懇願し、週に一回ピアノを習います。また、高校のピアノを使わせてもらえるようにとも取り付けます。
一方、勇治との手紙のやりとりの頻度は増す一方でした。
夜、手紙を書き、翌朝にポストに投函。昼休みの合間にも筆をとり、郵便局によって帰る。
勇治からもまた、二日に一回、ときには毎日手紙が届きます。
だが、どうしたことでしょう。金子の写真を送って以来、手紙が途絶えます。
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Last updated
2020.05.24 21:40:14
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