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2008年10月29日
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カテゴリ:Figure Skating(2008-2009)
去年あたりから、フィギュア・スケートファンは思ったはずだ。
「なぜキム・ヨナ選手の点って、こんなに高いの?」
今シーズンの初戦、グランプリシリーズのアメリカ大会。女子シングルはキム・ヨナ選手の圧勝。2位を20点以上ぶっちぎるトータル193.45の高得点。キム・ヨナ選手の優勝という結果に疑問の余地はないものの、なんだってこんなに差がつくのかわからない、という一般ファンも多いだろう。

昨シーズンから顕在化した、意味不明にも見える極端な点差。拙ブログでは昨年さんざん書いて、常連さんなら承知しているだろうが、新しく読む読者の方のためにもう一度書いておこうと思う。

昨シーズンから「ジャンプの回転不足」と「フリップあるいはルッツにおける踏切エッジの間違い」の判定が厳密化された。これに苦しめられたのが、日本勢とアメリカ勢。

不正エッジ問題は日本とアメリカの有力選手のほとんどが抱える問題だった。ただ1人、この不正エッジ問題を気にしなくていいトップ選手がいた――それがキム・ヨナなのだ。

フリップなのにルッツの側のエッジで踏み切る(安藤選手、中野選手、マイズナー選手)、あるいはルッツなのにフリップの側のエッジで踏み切る(浅田選手)、これらのクセは従来から女子選手には多かったのだが、最後の最後にエッジがかわったとしても、肉眼ではほとんど見えない。ただそういうクセをもっている選手のことは審判はわかっていた。この不正エッジでの減点を厳密にすると昨シーズンが始まる前に通達されたのだ。

安藤選手は昨シーズン前に、不正エッジを徹底的に矯正した。その結果フリップがルッツ気味になることはなくなったが、他のジャンプ(特にルッツ)の調子を崩した。中野選手はもともと「いつも」不正エッジになるわけではなかったのだが、シーズンインしてみると、減点されたりされなかったりで、気になったのか、ときおり3回転のフリップやルッツが2回転になる失敗が増えた。一番深刻だったのは、浅田選手。無理に矯正しなかったことで、安藤選手のように他のジャンプまで不調に陥ることはなかったが、そのかわりルッツは毎回必ず厳しく減点され、点数が稼げなくなった(詳しくは3/22のエントリーその他を参照)。

キム・ヨナ選手はルッツをきっちり外側のエッジにのって踏み切りることができるため、決めればほとんど加点がつき、基礎点を大きく上回る点を稼ぐことができた。キム選手の場合、フリップは若干アヤシイ。きっちり内側のエッジにのって踏み切っていないことは明らかで、エッジが外側に入りかけたところで踏み切るようなジャンプだ。つまり、はっきり外側(不正側)にのっているともいえないが、といってフリップの条件である、内側のエッジで踏み切っているともいえないのだ。今回のアメリカ大会でスロー再生で連続ジャンプがでたが、この傾向は変わっていない。同じことは安藤選手にもいえる。矯正して外側にのることはなくなったが、キム選手と同じくフラットな踏み切りなのだ。だが、とりあえず、間違った側にのって踏み切っていなければ減点の対象にはならない。

去年キム選手が他の選手より心理的に優位だったのは、不正エッジ問題を抱えていなかったからだ。今回のアメリカ大会では去年まで問題のあった選手は矯正してきたので、この部分の差はなくなったといえる。だが、そのためにさいた時間は多かったはずで、もともと不正エッジのなかったキム選手は、他の選手よりずっと余裕をもってジャンプの練習ができただろう。問題は浅田選手で、本当に矯正ができたかどうかは試合を――それもスロー再生で――見てみないと今の段階ではわからない。

もう1つ、去年から厳密化され、ほとんど「見つけるのに血道をあげている」と言ってもいいのが、ジャンプの回転不足。大変に奇妙なことに、3回転ジャンプを45度以上回転不足で降りてきた場合、それは2回点ジャンプの失敗と見なすというのが今のルールなのだ。そして、その回転不足判定が去年から厳密化された。これが、極端な点差がでるようになった諸悪の根源だ。

なぜ、こんなルールにしたかといえば、「大技を抑制する」という意味合いがあった。難しいジャンプに挑戦する選手が増えると、怪我の危険性も増え、選手生命を縮める。難しいジャンプを跳ばなくても勝てる――つまり、ジャンプ大会にしない――ようにすることが目的だった。ところが、トリプルアクセルや4回転のような、非常に難しいジャンプの基礎点があまり高くなかったため、GOEで加点されたルッツのほうがアクセルより点が高くなるなどという本末転倒なことが起こってしまった。

この矛盾を見過ごせなくなったため、今シーズンからトリプルアクセルと4回転の基礎点が引きあげられた。これで男子は4回転を跳ばなければ世界一になる確率が低くなってしまい、事実上ジャンプ大会に逆戻りすることは間違いなくなってしまった。

女子の場合は4回転をもつ選手はいない(安藤選手は試合でもう何年も決めていない)し、トリプルアクセルをもつ選手もほんの数人なので、基礎点があがったことでジャンプ大会になるということはない。ただ、女子選手に多い、「若干回転不足のジャンプ」に対する減点が苛烈なため、見た目の印象以上に極端な点差が出る試合が増えたのだ。

回転不足かどうかは、着氷時のエッジの位置で見る。肉眼でも「あ、回転足りてないかな」とわかる場合もある。降りてから「グルッと回ってしまっている」ようなジャンプが回転不足なのだ。きちっと回って降りてくるとエッジが氷についてから回転するようなことはない。

肉眼でほとんどわからない回転不足気味のジャンプは、昔から女子選手には非常に多い。だが、従来はとりあえず、転倒せずに降りてきて、お手つきしたりオーバーターンが入ったりツーフットになったりしなければ、「成功ジャンプ」と見なしてきた。それは非常に合理的な判断だ。多少回転が足りないとはいっても、3回転ジャンプは2回転以上回っている。

ところが、回転が足りない3回転ジャンプは2回転ジャンプの失敗と見なしましょう(これがダウングレートとGOEでの減点でのダブルパンチだ)というのが、新採点システムであり、しかもスロー再生で、肉眼ではきれいに降りたように見えたジャンプの着氷まで何度もチェックして、厳密減点するようになったのが去年から。

難しいジャンプはそれだけ、回転不足になりやすい。セカンドに跳ぶトリプルループは特にそうだ。

やはり悲惨だったのが去年の浅田選手。セカンドにトリプルループをもつ彼女は、決めたように見えてもしばしば回転不足(ダウングレード)判定される。そうしたことが気になったのか、セカンドジャンプの精度そのものが落ち、ショートプログラムでしばしば失敗することになった。

この回転不足判定の影響をほとんど受けなかったのが、またキム・ヨナ選手なのだ。彼女にはもともとセカンドに跳ぶトリプルループも、トリプルアクセルもない。トリプルトゥループは得意なので、セカンドに跳んでもほとんど回転不足にならずに降りてくることができる。だから、ダウングレード+GOE減点の餌食になることはなく、しかもなぜか、いつの間にやら飛距離にすぐれた彼女のジャンプが加点のお手本のようにされ、大盤振る舞いともいえる加点を得て、点数をのばした。

問題はこの回転不足判定が、試合によって厳しい審判と厳しくない審判がいることだ。よく解説の元選手が、「もしかしたら、回転が足りてないかもしれない。ダウングレード判定にされるかも。ジャッジがどう判断するかわからない」と言っているのは、そのこと。実際に点が出ないとわからないのだ、たとえプロの目からでも。

Mizumizuの見るところ、セカンドジャンプの回転不足判定は、トリプルループジャンプには厳しいが、トリプルトゥループには厳しくない。今回のアメリカ大会のフリーでキム選手の最初の連続ジャンプのトゥループは若干回転が足りていないように見えた。ところが減点されるどころか加点されていた。同じことは去年の浅田選手にも起きた。スローで見たら、若干セカンドのトゥループの回転が足りていないように見えたのに、減点されずに逆に加点されたのだ。

今回のアメリカ大会、安藤選手のジャンプについては、解説の荒川静香も本人も「ジャンプはよかった」と言っていた。ところがプロトコルを見ると、かなり回転不足を取られている。ループは確かに回転が足りていない。さらに、ショートの単独トリプルフリップに関して――スローを見ても荒川静香は、「いいジャンプ」と言っていたし、Mizumizuも着氷のあとに流れもあっていいジャンプのように見えたのだが――プロトコルをみるとダウングレードこそないものの、GOEで減点されていた(加点したジャッジ、加点も減点もしなかったジャッジもいた)。「どうして?」とスローを何度も見たが、若干降りてから回っている――つまりほんの少し回転が足りないかな、と思わないでもなかった程度。それでマイナス2をつけたジャッジもいるのだ。これはいくらなんでも減点しすぎだろう。GOEはこのようにジャッジが勝手に加点・減点できるのだ。

ショートで安藤選手とキム選手には10点近く差がついた。見たところ安藤選手はステップではコケたが、ジャンプはすべてきれいに決めた(ように見えた)。一方キム選手は明らかにわかるお手つきで演技の流れが止まってしまった。

ところが、この2人のジャンプの点をみると、3つのジャンプの合計がキム選手20.36点、安藤選手15.5点と、ジャンプだけで5点もの差がついている。あとの要素の積み重ねもあるが、基本的にあの点差はジャンプの評価の差によるものが大半なのだ。解説ではそのあたりのことに全然気づかすに、「(安藤の)ジャンプの調子がよすぎて、返って…」などと的外れな話にななっていた。的はずれ、というのが実は的外れなのかもしれない。つまり、プロトコルを見なければ、安藤選手のショートのジャンプの点がそんなに低いなど、思いもよらないからだ。

なぜそんなことになるのか? その答えが回転不足判定なのだ。お手つきは、回転不足で降りていなければダウングレード(基礎点がさがること)にはならないから、案外痛手にならないのだ。見た目は転倒と同じぐらいプログラムの流れを止めてしまう「お手つき」だが、実際は回転不足よりずっと減点が少ない。

ジャンプの点をみると
キム選手
3F+3T  10.7
3Lz 7.6
2A(お手つき) 2.06

2Aのお手つきはGOEのみの減点だが、なんと厚顔にも「減点していない」ジャッジが1人いる。お手つきをして流れが完全にとまったのに減点なしとは! 加点・減点は上下は1つずつ切るから、1人だけ不正な審判をした人間がいてもたいした影響はないといえばいえるが、問題なのは、GOEの加点・減点はマイナス3からプラス3までジャッジが主観でつけていいことだ。スピンやステップ、2回転ジャンプはジャッジのつけた加点・減点がそのまま反映されるわけではない(詳しくはウィキペディアの「フィギュアの採点方法」を参照)のだが、3A以外の3回転ジャンプについては上下を切り、コンピュータがランダムに選んだジャッジの点の平均値がそのまま反映される(わかりにくいでしょう?)ので、主観による加点あるいは減点がかなりの比重を占めることになる。基礎点が決まってるから、新採点システムは採点が客観的になった、なんてのは嘘なのだ。実際には主観による自由度がかなり高いし、ランダムに選ばれたGOEの加点・減点のどれが拾われるかで点もかわってくる、ルーレットのようなところもあるのだ。

安藤選手のショートのジャンプの点は
3Lz+3Lo (Loがダウングレードで2回転の基礎点になり、そこから減点されて)6.5
3F(GOEでマイナス2、マイナス1、ゼロ、プラス1と評価が分かれたものの、マイナスのジャッジが多くて基礎点の5.5から下がって)4.5
2A 4.5


<続きは明日>






最終更新日  2008年11月14日 01時31分54秒
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