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Mar 10, 2008
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カテゴリ:伊庭求馬孤影剣
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 老婆が鍋の雑炊を丼にうつし勧めた。

「この宿ではこんなものしかないが、遠慮なく食べておくれ」

 もともと木賃宿とは食事はでなかった。こうした宿が出来た当時は旅人は、

持参した糒(ほしい)をもどす湯を沸かす薪代を払い、自分達で自炊をしたもの

だ。従って布団などの用意もなく本当の意味の素泊まりであったが、最近になっ

て旅籠に似た形態の宿に変わってきたのだ。

 求馬とお蘭は具沢山の雑炊を食べはじめた、野菜は山菜がおもで山でとった

茸類が物珍しい雑炊であった。

「美味しい」  お蘭が旺盛な食欲をみせながら物珍しく口にしている。

「婆さん、もう一泊するよ。女連れでは峠越えは無理だから」

 猪の吉が代金を前払いしている。

「おまえさん達はいい料簡をなすっているね、今日、雨が降らねば明日は峠道も

乾くだろうよ。ゆっくりと泊まってゆきなせえ」

 老婆が旅籠代をもって奥に引き下がった。

 求馬が雑炊を食べ終り、湯呑みに手を伸ばし猪の吉に己の考えを述べた。

「猪の吉、わしの考えじゃが小仏峠を避けようと思う」   「・・・」

 猪の吉が不審そうに求馬を見た。

「相模川を船で下りたい」  それを聞いて猪の吉が反対した。

「それは無茶ですよ、川は昨夜の大雨で増水し無理と思いやすぜ」

「みすみす敵の罠にはまれと申すか?」  「・・・」  猪の吉が口を閉ざし、

ぐびっと酒を飲み込んだ。それが出来るならこした事はない。

「お主には済まぬが、相模川を渡る船をもつ船頭がおる筈じゃ。それを探っては

くれまえか」

「判りやした、早速探ってめえりやす。ところで旦那、舟で何処に行かれやす」

「川の状態で考えるが、とりあえずは対岸の小原宿じゃ」

「小仏峠を避けやすか。巧く行けば甲斐の入口の上野原宿まで着けますな」 

「そうじゃ」  「早速、出かけやす。夕刻までには戻ってまえりやす」

 猪の吉が身形を整え、鬱蒼たる樹木の小路に消えて行った。

「旦那、あたしの事で無理をしないで下さいね」

 お蘭が申しわけない顔つきをしている。

「そちだけの事ではない、小仏峠は登りのきつい峠で知られておる。出来れば

避けて通りたい」  求馬のいうとおり小仏峠は標高五百四十八メートルのさほ

ど高くない峠であるが、急坂で知られた難所で有名であった。

 そこに影の軍団と異名をとる六紋銭の忍びが、待ち受けていると思うと求馬で

あっても避けて通りたい事であった。

「お婆、このあたりに宝珠寺があると聞いたが、どの辺りにあるな?」

「この道を辿れば眼を瞑っても行き着きますぞな」

 老婆が小路を指さした。

「お蘭、こうしておっては躯が鈍る、この辺りを散策いたそう」

 求馬とお蘭が連れだって宿を出た、辺りは緑の樹木が頭上を覆い名の知らぬ

野鳥のさえずりが聞こえる。二人は小仏宿の景観を愛でながら小路を進んだ。

 暫く進むと立派な門前の寺に着いた、流石は江戸まで聞こえた古刹である。

「ここが宝珠寺じゃ、この寺の近くに三度屋という旅籠がある。そこから月に

三度江戸に向かう飛脚が出る、それを甲州三度飛脚と云うが、彼等の定宿じ

や」    「旦那は物知りですね」

 お蘭が感心の面持ちでそっと求馬の手を握りしめた。暖かい手の感触で

お蘭の躯が疼いた。因みに三度笠の語源はこの三度飛脚の被った笠から

とったと云われている。二人は野趣あふれる景色を堪能し宿にもどった。

 夕刻を迎えるとさすがに冷えてくる、二人は囲炉裏端に座り、猪の吉の

帰りを待っていた。  「お客人、お連れは未だ戻って来ませんかの」

 老婆が心配そうな顔をみせ食事の用意を始めた。

「お婆さん、この辺りは何が美味しいの?」  お蘭が興味をしめしている。

「こんな山奥じゃ、猪の肉なぞが美味いがの江戸の人にはどうかの」

「猪の肉?」 「鍋にするのじゃ、大根や葱や山菜を入れての、躯が暖まるし

滋養があるのじゃ」

「猪さんに食べさせたら、どんな顔をしますかねえ」

 お蘭が笑い声で求馬をみつめ、求馬は無邪気な態度に苦笑で応じている。

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Last updated  Mar 10, 2008 11:49:10 AM
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