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カテゴリ:ヤング・マイロン
ウィンラッド城の尖塔は強風が吹きぬけ、夏でも肌寒く感じられるほどだった。
五百段を超える階段を登りきった所に少し大きめの居間といった部屋が作られ、そこに一人の初老の男性が閉じ込められていた。 食事は日に三回、食事をすることの他はさしてやる事もないのだが、この部屋からは一歩も外に出る事は出来なかった。扉の外にはいつも二人の兵士が見張り、出入りは限られた者しか出来なかった。 その数少ない出入りの出来る人間としてアクダイはこの尖塔までやって来て、兵士に目くばせした。 兵士はアクダイを認めると少し頭を下げ、静かに脇に避け彼を通した。 鉄の板が埋め込まれた重厚な扉がきしみながら開くと、アクダイは静かに足を踏み入れた。 「ご機嫌いかがですかな、コータッツ殿?」 彼は『殿』という所に特に力をこめて言った。今や自分がサランの国王であることを強調するためだ。 「おおアクダイか?国王自らこのあばら屋にお越しいただくとは誠に光栄なことだな。よほど暇だと思える。お前は自らが満足をすれば他の事には何一つ関心を示さない輩の様だからな?」 そう言ってコータッツはあらん限りの皮肉をぶつけた。 アクダイは表情を引き締め怒鳴った。 「アクダイ王と呼べと何度言えば分かるのだ。そちはもはや王ではなく、一介の老人にすぎないのだ。」 「ほう?そんな一介の老人をなぜこんな所に押し込め生かしておくのかな?さっさと処刑でもすればいいものを。」 コータッツは嘲笑しながら言った。 「お前を生かしておくのは、かつてこの国で王と名乗った者として情けをかけてやっているからこそよ。頭に乗るではない。」 アクダイの言葉にコータッツは突如笑いだした。 「情けをかける?民を恐れているのであろう。民を抑えるには私を生かして人質にするしかないからのう?」 アクダイの瞳には激しい憎悪がみなぎった。コータッツは続けた。 「民をみくびるでない。民は強い。いつかお前には民の刃で刺し抜かれる日がやってくるだろうて。その時はこのコータッツ、民の足手まといにならぬよういつでも命をささげるつもりじゃ。」 今やアクダイの顔は紅潮し、激昂して言った。 「黙れ!無礼な。いつまで王を気取るのだ。そちはもはや王ではない。王はこのアクダイ様だ。」 「ゲオルグに操られる人形のな?」 アクダイに返したコータッツの言葉に、アクダイは怒り狂った。 「よく聞けコータッツ。お前の娘ナスコボスが余の大事なサングリド鉱山の奴隷どもを逃がしよったわ。今に見ておれ、必ずや捕えてお前の面前で処刑してやろうぞ。」 アクダイはそう言ってコータッツをにらみつけた。 しかし、これを聞いたコータッツの顔には赤みがさして、満面の笑みを浮かべた。 「何?ナスコボスが。お、お、でかした、でかした。よくやった。やはりわしの子じゃ。きっとシモン将軍も一緒なのであろう?」 そう言ってコータッツ王は踊りださんばかりに体を揺らしてはやし立てた。 「今に見ておれ、泣いて娘の助命を望んでも、貴様は娘のもだえ苦しみ死んでゆく姿をその目に焼き付ける事になるであろう。」 そう言ってアクダイは激しく壁を揺らすほど重い鉄扉を叩きつけて部屋を後にした。 Copyright (C) 2013 plaza.rakuten.co.jp/zakkaexplorer/ All Rights Reserved. 「雑貨Explorer」 今回のキーワードは「謁見」で1,160件ヒット。 謁見にも色々なシチュエーションがあるものだ。 これは亜米利加総領事ハリスと江戸幕府将軍との謁見
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