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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
信乃は甲斐の国、猿石村の村長である四六城木工作(よろぎ むくさく)の家を訪れていた。 旅芸人の座長、尺兵衛から四六城家に鷲にさらわれて来た浜路という娘が病で床に臥せっていると聞いたからだ。 昔、伏姫の姪である里見義成の娘の浜路姫が赤子のとき、鷲にさらわれたことを丶大から聞かされていたからだ。 事情を聴いた木工作に案内されて奥の間に通された信乃は、布団に臥せる浜路の顔を見て驚いた。 彼の許嫁の浜路に瓜二つだったからだ。 それを聞かされた木工作も驚いた。 「浜路は里見様と御縁があるのでしょうか?さすれば里見様の下にお返しするのが筋というもの。」 木工作は実の娘ではないものの、心根が優しく幼いころから我が子同然に育ててきた浜路との別れを思うと、寂しさを禁じ得ない気持ちを押さえながらつぶやいた。 彼はさらに続けた。 「だが里見様にお返しするにしても、浜路はこの通りひと月前に突如倒れて、そのまま臥せってしまったのであります。」 信乃は自分の許嫁にあまりにも似ており、名前も同じ浜路の美しい寝顔を見つめながらうなずいた。
そこへ木工作の妻である夏引(なびき)がお茶を運んで部屋に入って来た。 夏引も木工作から事情を聴いて驚いた顔をして言った。 「浜路は誠に里見様のご息女様なのですか?」 彼女は老齢の木工作の妻はすでになく、浜路を育てるために乳母として彼のもとにやって来てそのまま後妻におさまっていたのだ。
その晩、信乃は四六城家に逗留することになり、夏引に伴われ奥の座敷に通された。 信乃は先ほどから不思議に睡魔に襲われていて、布団に潜り込むように横たわりぐっすり眠りこんでしまった。
「犬塚はどうした?」 男の名は泡雪秋実(あわゆきあきざね)、武田家の家臣だ。 「大丈夫、奥の間でぐっすり眠っております。」 夏引は密通相手の泡雪ににやりと笑ってさらに続けた。 「木工作は?」 「奴は旅に出た、一足先に死出の旅にな。」 「一足先に?」 振り向いた夏引に泡雪の刀が振り下ろされた。 彼は倒れた夏引に言った。 「お主よりも一足先にな。許せ、知りすぎているお主はもう邪魔なのだ。」
「犬塚とこの娘を我が屋敷に運べ」 泡雪は家来を呼んで命じた。 泡雪の頭には信乃に四六城夫婦殺害の罪を着せ、浜路を里見家との交渉材料としての人質にする策があった。
「顔色から死んでいるわけではないようだけど、おや?あれは確か信乃さん?」 「茶阿兄ちゃんどうしたの?」 声を掛けたのは茶阿の従弟の千代だ。 螺良猫団の茶阿は甲斐の国の従弟を訪ねていたおり、偶然この場に居合わせたのだ。 「千代坊、お前すまないけどあのお侍たちを見張ってくれないか?おいらは佐飛母さんに知らせに走る。」 「うん、わかった。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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