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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
ここは甲斐の国。 甲斐源氏の血を引く守護大名で、後の武田信玄の曽祖父に当たり、名君と謳われた当主武田伸昌の城下である。 甲斐はもともと痩せた土地柄ではあったが、信昌の優れた治世により町は栄え、活気に満ちていた。
行き交う人々もやはり活気に満ちて、往来も激しかった。 その往来の中、先程から男たちが振り返っては好奇の目を向ける存在があった。 その視線の先には一人の女が、質素ではあるが清楚なたたずまいで歩を進めていた。 彼女の人目を避けるような装いが、逆に彼女の美貌を引き立て、男たちの目はくぎ付けになるのである。 美しい女を見るとひとり占めにしようと思う身の程知らずの男はどこにもいるものだ。 ご多分に洩れず、一人の男が彼女の行く手を遮った。 運悪く、その男はこの町では札付きの悪党で、欲しい者は力づくでも奪い取る輩であった。 「ねえちゃんよう、俺の所へ来なよ。たっぷり楽しませてやるぜ。」 そう言って、毛むくじゃらの太い腕を女の肩に伸ばした。
その時、その男の腕をがっしりつかむ者がいた。 男がそちらを振り向くと、男に負けず大男で、もみあげを頬の脇まで生やして、それに負けない額のもじゃもじゃの眉毛で、ぎょろりとした大きな目玉。 子供なら一目見ただけで泣き始める面構えだった。
犬山道節だ。
「なんだお前、こんなことしてただで済むとは思うなよ。」 男は激しい剣幕で怒鳴りたてた。 やおら男は太い腕を振り回し、道節の右顎に小岩ほどの拳を食い込ませた。
と思いきや・・・・ 拳は空を切り男はよろけ、胸で道節の拳を受け止めた。 「うっ、うっ、うーっ。」 男はうめいて後ろによろめいた。 男は二、三度荒い息をしていたが、ようやく呼吸を整え態勢を立て直し、道節に襲い掛かった。 そのとき、今まで様子を見ていた女が目にも止まらぬ速さで男の前に立ちはだかった。 女は驚く男の顔を見てニヤリと笑うと、なんと着物の裾を腰までまくり上げ、真っ白い肌ですらりと伸びた大腿を惜しげもなくさらけ出し、やおら腰をかがめて大きく足を振り回した。 彼女の足は男のすねを見事に捉え、男は頭から地面に落ち、次の瞬間女の足の平は男の顎を踏みつけ、地面に押し付けた。 「お前さん、そうやって今まで散々女たちをいたぶって来たのかい?たまには相手を選ぶんだね?」 男は不意の事に動転しながらも抗おうとした。 「騒ぐんじゃないよ。私が足に力を込めれば、あんたの首はポキリと折れちまうよ。」
女が道節に振り向くと、さすがの道節もぎょろ目をさらに見開いて、あんぐりと立ち尽くしていた。 「お、お、お前。もしや男か?」 女は何も言わず、男の顎から足を外し道節に振り向いて対峙した。
ようやく自由になった男はよろよろ立ち上がった。 そして背を向ける女にじわじわと歩み寄り、渾身の力で叩きのめそうとしたが・・・・ 今度は男がぎょろ目をむき出し、顔から脂汗が滴り始めた。 女の足の甲は見事に男の急所を捉え、男の腰巻から赤い血が滲んで、彼はその場で股間を押さえ激痛に身じろぎもできず、痙攣し始めた。
それを見た道節は、男なら誰でも知る惨い光景に身をよじる思いだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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