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2020.05.28
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「小文吾まで膝まづくから、てっきり私は浜路姫に大変な非礼を犯したかと思ったではないか?」

荘助は小文吾を睨んだ。

「いや、私も膝まづかなければ到底荘助も信じまいと思ったからだ。」
それを聞いて荘助は言い返した。

「そら、小文吾も私を騙そうとしたのではないか?」

「紛れもなく。」

小文吾の言葉に堪えきれず皆で笑った。久しぶりの安らぎのひと時だった。

 

「だが荘助、浜路は本当に浜路姫なのだぞ。私たちが子どもの頃から知る浜路が浜路姫の体の中にいるのだ。」

信乃の言葉に荘助もうなずいた。

「三人ともそれはそうと始めようではないか?」

大角に促され、小文吾は悌の珠を、信乃は孝の珠を、荘助は義の珠を大角と現八が稲荷大社から持ち帰った霊験あらたかな御神水に浸した。

三つの珠は御神水の中で互いに呼応し合い、まばゆく光った。

瓜太の言うには、こうして三日三晩珠を浸けておけば、珠の持つ霊力が御神水を満たし、その御神水で小文吾の目を清めれば、たちどころに小文吾の視力は回復するというのだ。

 

僧丶大(ちゅだい)と父五里二姉妹の蘭と喜利はようやく常陸国筑波山にたどり着こうとしていた。

彼女たちは父親の心の臓の病を治すために、蝦蟇の油を求めてはるか上野国荒芽山からやって来たのだ。

途中偶然にも、いや縁に導かれてというべきか、品川の宿で丶大と出会い、山賊退治で知り合う仲となった扇谷家の取締方の志茂玲央とも出会った。

丶大は女二人の旅は心許ないと同行することを申し出てくれ、玲央はそんな三人が筑波山まで何の差し障りもなくたどり着けるように通行証の札を持たせてくれた。

そうして三人はようやくこの地にたどり着いた。

 

蝦蟇蛙の皮膚から垂れる液には蟾酥(せんそ)と呼ばれる強心作用、鎮痛作用、麻酔作用、止血作用の効用をもつ成分が含まれ、それを集めて煮詰めたものが世にいう蝦蟇の油なのだ。

 

右目の周りにそして右後ろ頭にそれぞれハートの模様を持つ蘭と喜利は首尾よく蝦蟇の油を手に入れ、丶大と季節も頃合いの紅葉見物に出かけることにした。

紅葉は今が盛りと、目に痛いほどの真っ赤な葉をまるで花火の様に空を彩り、垣間見える真っ青な空がさらにそれを引き立ててくれた。

二人がその美しさに見とれていると、

ドン

誰かが急にぶつかって来た。

その勢いで小柄な猫姉妹は弾き飛ばされてしまった。

「おお、これは申し訳ない。怪我はありませぬか?あまりにも見事な紅葉で見とれて歩いていたもので。」

二人を起こしながら愛想の良い男が気遣った。

「ああ、私どもも同じく見とれてしまって。」

蘭はそう言ってニコリと微笑んだ。

「では私はこれで。」

男は何度も頭を下げながら紅葉の坂を下って行った。

三人は再び紅葉の坂を登り始めてしばらくして後ろから声を掛けられた。

「もし、猫族のお二方。」

三人が振り返ると若者が先ほどの男を羽交い絞めに立っていた。

「これはお二方の財布ではありませぬか?」

「まあ!!」

若者の言葉に蘭と喜利は懐を探って一緒に驚いた。

男はスリだったのだ。

懲らしめのために男の腕は折られ、これで当分は商売ができないだろう。

若者がその男を突き放すと、腕を抑え脱兎のごとく逃げ去っていた。

若者は僧に向かって言った。

「お気を付けください。折角丶大様が一緒におられるのですから。」

丶大は自分の名を知る若者をしばし見つめ、驚嘆の表情を浮かべた。

「し、し、親兵衛か?いやそのようなはずはない。親兵衛はまだ五つのはずだ。」

若者は膝まづき言った。

「はい、その親兵衛でございます。お久しゅうございます。」

 

「はい小文吾さん、済みましたよ。ゆっくり目を開いてみていただけますか?」

浜路は三つの珠を浸けた御神水を布に含ませ、小文吾の目を丹念に清め優しく促した。

小文吾は恐る恐る目を開くと、眩い光が一気に目の中に飛び込んで来て慌てて目を閉じ顔を背けたが、もう一度ゆっくり目を開くと、真っ白い光の中に次第に浜路の顔が像を結んだ。

「浜路さんですか?お初にお目にかかる。」

浜路は眉をちょっとすくめたが、思い直して座りなおすと両手を膝の前に揃えて、丁寧にお辞儀をすると言った。 
「お初にお目にかかります。私が浜路にございます。」






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最終更新日  2020.05.28 00:00:19
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Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~癒えた小文吾の目の巻き(05/28)   himekyon さん
佳境にはいりましたね。
親兵衛も大きくなり活躍したのですね。ガマの油、筑波山のお土産やさんの水槽にガマがいたような
筑波山の山頂近くにガマに似た巨大な石があります。

マスPさんが、植物に興味を持っていただいてうれしいです。
大きいオナガから小さいエナガに、街中にはエナガはいないですね。 (2020.05.28 00:35:04)

Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~癒えた小文吾の目の巻き(05/28)   パパゴリラ! さん
心臓の薬を求めて旅をしてくれる蘭と喜利、親孝行だなぁ~!
我が家の娘たち、本当にそんなであって欲しいものです。

ガマの油は強心作用もあるんですね。

しかし、薬を手に入れたのに、ぼーっと紅葉見物はいけないなぁ~。
早く薬をもって、父のもとに帰れ~~! (2020.05.28 06:02:52)

Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~癒えた小文吾の目の巻き(05/28)   空夢zone さん
目が見えるようになって良かったですね。
蝦蟇の油、センソ、と言えば、漢方薬でもありますね。 (2020.05.28 20:17:03)

Re:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~癒えた小文吾の目の巻き(05/28)   himekyon さん
藤原定家はピンポ~ンなのですが、、、
由来が凄い‼️死んでしまった愛した女性が忘れられず、テイカカズラに生まれ変わってその墓に絡み付いてしまったのが由来です。
(2020.05.28 20:53:45)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~癒えた小文吾の目の巻き(05/28)   Master P さん
himekyonさんへ
筑波山は新卒で入った会社の工場があった市原に住んでいた頃、高校の先輩と行きました。
大きなガマの像が印象に残っています。
(2020.05.30 16:01:52)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~癒えた小文吾の目の巻き(05/28)   Master P さん
パパゴリラ!さんへ
・薬を手に入れたのに、ぼーっと紅葉見物はいけないなぁ~
もっともです。私もどうしようか迷ったのですが、今の様にキャンカーでひとっ走りとは行かない当時は、一旦ついたら体力を回復する必要があるだろうと、こういう筋にしました。
蝦蟇の油が大変なことになるのですが、最後には最高の形で返ってきますので、期待して待っていてください。
後一か月です。
(2020.05.30 16:06:22)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~癒えた小文吾の目の巻き(05/28)   Master P さん
空夢zoneさんへ
健康にとても詳しいですね?
本当は結城合戦の法要の場に八犬士が初めて集まるのですが、マスP八犬伝は穂北荘になっています。
(2020.05.30 16:09:01)

Re[1]:ニャン騒シャーとミー八犬伝 ~癒えた小文吾の目の巻き(05/28)   Master P さん
himekyonさんへ
定家ってそんな人?いいイメージがありますが。
なんか怨霊みたいなすさまじい執念みたいなものを感じます。
(2020.05.30 16:10:41)


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