これで本当に我が国を守れるのか・・・
今後10年間の日本の防衛・安全保障政策の基本となる新しい『防衛計画の大綱』と、来年度から5年間の中期防衛力整備計画が昨日17日に閣議決定されました。大綱の改定は2004年以来6年ぶり4回目、民主党政権下では初めてとなります。 従来の防衛大綱では、旧ソ連の侵攻を念頭に部隊を全国に均等に配置して抑止効果を図る"基盤的防衛力構想"を基本理念としてきましたが、今回の新しい大綱ではこれに替わるものとして、平素からの情報収集や警戒監視を強化し様々な事態に即応できる態勢を整える"動的防衛力"という構想を打ち出しています。 具体的には、近年軍事力を増強しアジアでの活動を活発化させている中国を"地域や国際社会の懸念事項"と位置付け、従来の冷戦型の装備を合理化する一方で海上自衛隊と航空自衛隊の能力強化や南西諸島方面への陸上自衛隊の部隊配置などを進める内容となっています。また、今回の大綱見直しの焦点となっていた"武器輸出三原則"の見直しについては、民主党政権が連携を模索する社民党への配慮で見直しの明記こそ見送ったものの、装備品の国際共同開発を念頭に将来的な見直しへの含みを残した内容となりました。 今回の新防衛大綱に基づく陸海空の自衛隊の態勢は概ね以下のような内容となります。*陸上自衛隊 基幹部隊としての9個師団・6個旅団編制は維持。一部報道で検討が噂されていた"陸上総隊"や"首都防衛集団"(東部方面隊および第1師団を廃止・改編して新編)についてはどうやら見送られたようです。増員か削減を巡って防衛省と財務省との間で調整が続いていた陸自の定員については、現在の155,000人から1,000人減らして154,000人という事実上の現状維持に落ち着きました。また、南西諸島方面への戦力強化の一環として与那国島方面への陸自の沿岸監視部隊の配置も明記されています。 主要装備のうち戦車および火砲については現大綱の約600両・600門からそれぞれ約400両・400門に削減。"冷戦型の装備"と見なされがちな戦車がまたも大幅に削減され、1970年代の約1,200両から実に1/3にまで減ることになります。近年の対ゲリラ・コマンド任務において掃討側の歩兵の用心棒として戦車に新たな役割が期待されている中での更なる戦車兵力の削減には不安がありますが、旧式化した74式戦車と国内全域での運用に不向きな90式戦車の一部を新型の10式戦車で更新していくことになるのかな? 新大綱で謳われている"動的防衛力構想"に基づくなら、90式戦車を北海道に集約して本州以南の戦車部隊を10式戦車で近代化するのが常道だろうと思われます。また、装輪式装甲車輌に105mm戦車砲を搭載した"機動戦闘車"(仮称)を戦車定数とは別に調達するとの情報もあり、これで戦車兵力の少なくとも火力と機動力については多少は補えるかもしれません。問題はどの部隊がどの程度削減されるかですが、少なくとも機甲師団としての第7師団は従来通り維持されるようなので、6個中隊編制の戦車連隊を持つ第2師団や、4個中隊編制の戦車大隊を残す第4・8・10師団が今後縮小される可能性があります。すでに来年度での廃止が決まっている北部方面隊第1戦車群とこれらの戦車部隊の縮小で約200両の削減は何とか達成できるかな? 一方、火砲については旧式のM110A2 203mm自走榴弾砲や75式自走155mm榴弾砲を全廃およびFH-70 155mm榴弾砲の一部を削減する可能性が高く、その場合には方面隊直轄の特科火力が大幅に減ることになります。一方、次期中期防で地対艦誘導弾を18両調達する計画が出ており、特科を削減する代わりに方面隊隷下の地対艦ミサイル部隊が多少増強されることになるようです。 あと気になるのは、ホークおよび03式中SAMを擁する方面隊隷下の高射特科部隊が現在の8個高射特科群から7個高射特科群/連隊に縮小されている点で、今後2個群を廃止および連隊規模へ縮小するのでしょうか。*海上自衛隊 海自の主要装備は護衛艦が現在より1隻増やして48隻、潜水艦は既存艦の延命で現在の16隻から22隻に増強されます。一方、基幹部隊である護衛艦隊の4個護衛隊群は維持されますが、護衛艦隊直轄の地方配備の護衛隊は現在の6個から4個になっており、この通りだと横須賀・大湊・舞鶴・呉・佐世保のうち1つが護衛艦部隊を持たないことになります。また、潜水艦の増強により1個潜水隊が増やされるようで、これが佐世保に配置されるのかな? あと、MD(ミサイル防衛)態勢強化の一環としてイージスシステムを搭載するミサイル護衛艦が現在の4隻(こんごう型DDG)から6隻に増強されるようで、現在MDに対応していないあたご型DDG2隻に今後MD能力が追加されることになるでしょう。*航空自衛隊 海自と共に能力強化が図られる空自は、沖縄の那覇基地に配置する戦闘機部隊を1個飛行隊から2個飛行隊に増強するほか、E-2C早期警戒機部隊を沖縄にも配置するとのこと。そうなると現在の三沢の航空警戒監視隊を2つに分けるか、分遣隊として沖縄に常時展開させることになるのかな? 那覇の戦闘機部隊が2個に増強されることにより、現在の南西航空混成団が航空団へ改編される可能性がありますが、問題はどこからF-15J部隊を持ってくるのか・・・ また、MDを構成するパトリオットPAC-3を北海道・東北・沖縄の3個高射群に新たに配備し、空自の6個高射群すべてでMDに対応する態勢を整えることになります。 あと、長らく懸案となっている次期主力戦闘機については未だ機種が決定していないものの、新中期防で"新戦闘機"として12機の調達が盛り込まれています。しかし、ホントに機種は何になるんでしょうね・・・ とりあえず、戦車と火砲がまた減らされる点は痛いものの、予想よりは酷くないレベルの内容といえなくもないでしょうか。新中期防も総額は前回より微減ではあるが2010年度予算並みの水準は維持されるようです。 ただ、"動的防衛力"という構想を前面に出してはいるものの、基本的には自民党政権の時代からすでに着手している"南西シフト"の流れを後追いしているだけで、しかもその割りには防衛予算全体は増えてないし、海空を増強といっても実態をよく見れば部隊や装備の配置転換や延命が主で陸自の削減分とのバランスが釣り合っていない感があり、表向き威勢のいいことを言ってはいるが実質的には看板倒れという気はします。 自民党は早速新大綱を「これでは日本は守れん!」と批判し、「自民党が政権奪回したら真っ先に見直す」と豪語してらっしゃるようですが、そもそも昨今の防衛予算の微減傾向は自民党政権の頃からだったろうという気も・・・(爆)