ヒントは、そこらじゅうに……うふ。
美容院に行く。 ここで、わたしは月に1度、髪を切ってもらい、染めてももらい、トリートメントというのをしてもらう。 じつは、40歳代の半ばまで、髪は自分で切り、自分で染めていた。 ショートヘアでこういう感じ、とイメージがはっきりしていたので、自分で切れる、となぜか、思いこんでいた。髪を切るのは好きだったし、でき上がったスタイルも自分ではわりあい、気に入っていた。 うしろ? 鏡も見ずに、ざくざく切った。 ほんとは、だいぶへんてこだったのだろうな。
45歳になったとき、なぜ美容室に行くようになったか、はっきりとは憶えていないが、美容師の仕事に興味をもったからだったような気がする。ためしに行った美容室で、いきなりプロに出会ってしまった。技術はもちろん、仕事に対する姿勢が、プロフェッショナルだった。 彼女の仕事を、しばらく眺めたい、と思った。 アシスタントたち——ヘアデザイナーをめざし、目下勉強しながら、ヘアデザイナーの助手みたいな仕事をしている——も、勉強熱心で、目がおもしろい。活きのいい目をしているな、と思うアシスタントは、だんだん変化していく。 ためしに……というつもりだったのに、この店で、わたしは、いろいろおしえられた。若いひとたちは、自分の考えや、興味というのを、ちょこちょこっと頭の上からふり注いでくれる。「旅をしてきました」「久しぶりに帰った故郷で、こんなことがありました」「友だちの結婚式に行きました」「こんな勉強をしました」 ……などなど。 そして気がつけば、もう5年間、毎月通っていた。
ふり注いでもらうばかりでなく、たまには、自ら発見もする。 ある日。「イヤー・キャップをつけさせていただきます」 髪を染める準備として、耳が染まってしまわないように、耳に小さなカバーをつけてもらったとき、ひらめく。 あー、これ、プロセスチーズの切り口にぴったりだー。
庶民的な、あの立方体のプロセスチーズが、好きだ。 料理にも、よく使うので、切らさないように気をつけている。好きなのだが、困るのが、切り口。使うたび、ここをいちいちラップで包むのが、どうも具合がわるい。ラップも、いちどはがすとくっつきにくくなり、また新しいのを使うの? もったいないなあ、というような気分。 美容室で使うイヤー・キャップ。これがあれば、チーズの切り口は、安泰だと思いついたわけ。 斯斯しかじか。と、いうわけで、イヤー・キャップがほしいんだけど、どこで売ってるの?と、尋ねると、アシスタントの青年が、「チーズの切り口に、イヤー・キャップ? おもしろ過ぎっすね」 と笑う。「でも買うとなると、おそらく少なくても50枚単位ということになりますよ。チーズのために2枚、さしあげます」 と言って、そっと包んでくれた。 以来、「チーズのカバーは、足りてますか? はい、補充分です」と、持ってきてくれる。うれし。
関係ないふたつのものを頭のなかで結びつけるのに成功したときというのは、なかなかのものだ。 美容室のほかにも。 生け花展に行ったときにも、また、ひらめきが……。
プロセスチーズの切り口に、イヤー・キャップ。
「小さな生け花展」という、「小さな花器に小さな花を生ける」をテーマにした展覧会に行きました。あ、とひらめきました。うちに帰って、台所のひきだしの隅に束ねておいた「ねじりん棒」を早速、生けてみました。食器棚のなかに置いています。