日々是徒然

『ゆっくりまっすぐ近くにおいで』渡海奈穂

この作家さんのを読むのは２冊目かな。以前もタイトルと絵師さんが気に入って買って読んで「ふーん」って感じだったけど、今回もまたもや「ふーん」って感じだったよ。学習しろ自分！　
タイトルが「ゆっくりまっすぐこっちにおいで」だとリズムもいいし、ばっちりだったんだけどなあ。あらすじ読んだら印刷屋さんの話だったので、ちょうど読んでいる間にＤＮＰがいろいろ話題になっていたので、おおっ業界もの！とか思ったけど、まあ中小のパンフやチラシをつくっている小さな印刷所の話だった。きっと同人誌も刷っている（笑）。中堅規模でも大口の仕事は減っていて、もやは同人誌しか生きる道はないって話もどこかから聞いた。

さて、この作品は見た目が若くて年をとらない妖怪系（笑）の受（でも中身は男前）が、大人でシャチョーで言葉遣いがゾンザイ、というところがちょっとフツーの受と違う。そして若くてまっすぐででもなんかいろいろ間違っている攻をいろいろとけん制しながら（育てながら）お近づきになる話。

二人が知り合ったきっかけは、緊急の仕事を受けてくれる印刷所を探していた攻が飛び込みでみつけた印刷所で働いていたのが受で、実はシャチョさんでもあったという出会い。そりゃ徹夜で二人でチラシを二つ折りしていたら愛も芽生えるだろうって？
そうなんだよ。どうして窮地を救ってくれて、人生相談に乗ってくれて「いい人だ～」って思う気持ちが、いきなり熱に浮かれたようなラブになるのがＢＬとはいえ不可解。だってノンケそうだったのに。そして用もないのに菓子折りもって３日とおかず会社に行くってすでに社会人としてどうかと。それに顔だのかわいいだの、お前に苦労させたくないだの（これは当て馬の幼馴染の台詞）、曲がりなりにも経営者である男性に対して言うような言葉じゃないフレーズが並んでいて違和感たっぷりだった。

ＢＬ作家さんって、まともな社会人したことない人が多いっぽいよね。べつにそれはそれでいいんだ。漫画家さんだってそうだろうし。でもそれなら、自分の知らない社会人というものがどういうものか、自分の周辺だけじゃなくて広く一般に通用するモデルというものを調べたほうがいいと思うんだよね。読み始めて20分で、社会人としてどうかと思うような描写が出てくると萎える。たとえば、しょっちゅう受の会社に立ち寄るにしても、仕事さぼってんじゃないっていう描写が必要なんだよね。なのに攻はすでにワンコになっていて受しか見えなくなっている。こういう設定の弱さを編集は指摘しないものなのか？
それともやっぱりラブ以外は求めちゃいけないんだろうか。

それでもまだ、けなげでワンコな攻はかわいく思えたが、元妻とそのいとこが出てきてからはあら～これは無理だわ、と思ったよ。もうね、好き好き好きが相手のことを考えない一方的なもので、特に元妻はヘンシツキョウ的に受にからんでいて怖かったよ。ああいう女性を出すのは、やっぱりＢＬ書きとしてどうかと。

一時的に周囲が見えなくなるほどの恋心というのは理解できるが、幼稚園から20年以上も独占欲丸出しで男の人生を支配しようとする女って、はっきりいって怖い。情緒面が未発達で常識が欠落している人間の描写を読まされるのは苦痛だ。読者は別に女が嫌いだからＢＬ読むわけじゃないと思うんだよね。だからあそこまで醜くバカな行動をする女に書かなくてもよかったと思ったなあ。

金さん、以前は好きだったけど、ちょっと今回のは粗さが目立った。崩れてきているのかな。