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カテゴリ:社会
せっかくクリスマス用のネタを考えていたのだが、あいにく仕事と重なってしまい、あっという間にクリスマスは去ってしまった。そういうわけで、そのネタは来年まで大事に取っておくことにしよう。 法学や倫理学の教科書によく出てくる話に、「カルネアデスの板」 という話がある。カルネアデスという人は、紀元前のギリシアにいた哲学者であるが、彼が提出した問題だということで、こう呼ばれているらしい。もっとも、カルネアデス本人は著作を残さなかったらしく、この話はキケロの 『国家について』 という著作での話が基になっているということだ。以下は、Wikipediaからの引用である。 一隻の船が難破し、乗組員は全員海に投げ出された。一人の男が命からがら、一片の板切れにすがりついた。するとそこへもう一人、同じ板につかまろうとする者が現れた。しかし、二人がつかまれば板そのものが沈んでしまうと考えた男は、後から来た者を突き飛ばして水死させてしまった。その後救助された男は殺人の罪で裁判にかけられたが、罪に問われなかった。
(緊急避難) 東大の元教授で最高裁判事を務めたこともある団藤重光は、著書の 『刑法総論』 の 「緊急避難」 の節で、「緊急は法を持たない」 という法格言を引用し、それに付した注で 「グローティウス、プーフェンドルフ等の自然法学者は、緊急状態では法秩序そのものがなくなると考えていたらしい」 と書いている。 しかし、もし目の前に緊急の医療処置を必要とする者がいれば、たとえ医師免許を持っていなくとも、それがそう難しい行為でない限り、それなりに心得がある者や、場合によってはただの素人であっても、そのような行為を行うことは可能であるし、そのために医師法違反で処罰されることもあるまい。その場合には、形式的な合法性よりも目の前の人を救うことのほうが優先される。 また操縦士が失神して飛行機が墜落しかけているとなれば、免許は持たないが多少は心得はあるという者が代わりに操縦したとしても、無免許操縦で罪を問われることはないだろう。なんと言ったって、そのまま放置して落っこちてしまえば、元も子もないことだし。 では、たとえば、気温が零下にも下がるような真冬の夜に、このままでは凍死しかねないと考えた者が、屋根があり外気を遮断することのできる駅の構内や公共施設に制止を無視して、あるいは壁を乗り越えたりして無断で立ち入ることは、法的に言っていかなる問題を惹起するだろうか。 そのような行為は、やはり 「住居侵入」 などの罪に問われるのだろうか。むろん、そのような行為を行わずに戸外にいた場合、実際に凍死したかどうかは、そうなってみなければ分からない。しかし同時に、そうなってからでは手遅れという話でもある。 少なくとも理念として言う限り、法は万人のためにある。つまり、法とは単にあれやこれやの禁止事項をお上が勝手に定めた掟ではなく、それを守ること、言い換えればそれが万人によって守られることが、たとえ直接的にではなくとも、万人にとってめぐりめぐって利益になるからこそ法なのであり、法としての意味がある。 終戦直後の食糧難時代に、山口判事という人が闇米を食べることを拒否して餓死したという話がある。この話は、しばしばその遵法精神の高さを表す美談として語られる。それが妥当かどうかははともかくとして、判事として国民に対し法を強制する立場にあった人間としては、それは一つの責任の取り方だったのかもしれない。 しかし、法を守ることが 「生きる」 ということと相反するなら、そのときに法を守るということにいったいいかなる意味があるだろうか。「法律で決まっているから」 とか 「規則でそうなっているから」 ということは、理屈を言う限りでは、そのような法律や規則に従うことを他人に要求する根拠にはならない。言うまでもないことだが、この世に完全な法などは存在しないのであり、だからこそ法は万能ではない。 法や規則を守ることが、その人自身にとっても、なんらかの利益をもたらすものでなければ、少なくともその人にとっては法を守ることに意味はあるまい。むろん、現実には法律や規則を独断で無視すれば、様々な不利益を被ることも予想されることであり、それが人々がしばしば、内心では不合理だと思っているような法にも、文句を言わず従っている理由の一つでもあるわけだが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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この記事をどんな意図でお書きになったのか、よくわかりません。が、法よりも先に「生」が前提になってるとも理解できるんじゃないでしょうか。法は人間にとって二次的な制度でしかない。ですが法を、株主利益とか既得権益の死守とかに読みかえると、最近の不況対策(ハケン切りetc)が生々しく迫ってきたりします。
(2008.12.29 02:22:11)
わどさん
自然法に関する昨今の議論については、よく知りませんが、「自然法」思想が侮りがたいのは、その根底に人間の「生」は形式的な法よりも優先するという思想があるからではないかと思います。 かつては駅や地下道などで夜を過ごす人も見かけたものですが、最近は規制が厳しくなっているようですね。そうすると、本文で書いたようなことは実際に生じる可能性はあると思います。 憲法で認められた権利を侵害するような行為を認めるがごとき法を作るというのは、まさに法の自殺とでも言うべきことなのですけどね。なんともお粗末な話です。 (2008.12.29 03:09:12)
この時期、「家も仕事もお金もない」と、
「刑務所のほうがマシ」といって犯罪に走る人がいるんですよねー。 「そう決まってるから」 まこと、私のいちばん嫌いなコトバです。人類の進歩を止めちゃいますから。 (2008.12.29 22:15:11)
goldberg2006さん
服役者の高齢化が進んでいると言いますからね。 知的障害を抱えた人も多いそうですね。 結局、今の社会に適応できない人たちが最後に保護を求める場所が刑務所だという妙なことになってるようですね。 昔、大熊信行という人が「家庭」とはただで飯が食えるところだというようなことを言ったら、言語学者の三浦つとむに、「刑務所」だってただで飯が食えるぞと突っ込まれたという話があります。 (2008.12.30 02:14:31)
goldberg2006さん、これをユーモアというんじゃないでしょうか。ステレオタイプな反応ですが、内部からの一種の批判(という事象)。今年を笑い飛ばして、新年を迎えたいものだと思わされました。
>この時期、「家も仕事もお金もない」と、 「刑務所のほうがマシ」といって犯罪に走る (2008.12.30 14:33:19)
松本清張の『カルネアデスの舟板』という小説を読んだ記憶があります。内容はまったく覚えていませんが、法について一つ知識が増えました。
戒厳令の規定なんていうのは、無法状態の合法化なのでしょうが、規定することで限界をもうけるという意味があると説く人もいるみたいです。 突き破られる前に自ら穴を開けておく、殺される前に自殺するような感じ。 本年もよろしくお願いいたします。 (2009.01.02 15:36:23)
とりがら2001さん
年が明けてしまいましたね。仕事と一緒に住むところまでなくした人たちにとっては、寒い冬になりそうです。 「形式的合法性」のみを盾にすることは、しばしば人が負うべき倫理的責任を解除し放棄することに繋がります。そのことも20世紀における様々な「蛮行」がもたらした教訓の一つだったはずなのですが。 こちらこそ、よろしくお願いいたします。 (2009.01.02 16:03:07)
>服役者の高齢化が進んでいると言いますからね。
TBありがとうございます。 今日、NHKの9時のニュースで、受刑者の高齢化を取り上げていました。 東京でも横浜でも地下道に「寝ちゃダメ」と書いてあります。(もっと官僚的な言葉ですが) 公共トイレのあるところに、ホームレススペースを作るのはだめかなあと思ったりするんですけどね。 (2010.02.04 00:37:41)
kuronekoさん
>東京でも横浜でも地下道に「寝ちゃダメ」と書いてあります。(もっと官僚的な言葉ですが) 暖かい地下道とか駅の構内から寒空に追い出して、その結果、凍死者が出たりしたらどうするんでしょう。それは、法的に言えば「未必の故意」に限りなく近い行為だと思います。 >公共トイレのあるところに、ホームレススペースを作るのはだめかなあと思ったりするんですけどね。 ほんとうに寒い夜は、風をさえぎる壁があるだけで、だいぶ違うでしょうね。 (2010.02.04 05:14:02) |