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カテゴリ:詩論・文学論
似たような名前の『SF入門』がSFを知らない読者に向けて発信された啓蒙的エッセィ集だったのに対し、本書はSFの同志に向けた福島正実氏の檄文の感がある。実際、『世界』の刊行直前に氏が急逝されたとあればなおさらだ。
実を言うと旧版は十代か二十代で読んだことがあるのだが、図書館で借りて読み返すまで、そのことを全く忘れてしまっていた。あらためて再読すると、宇宙人や空飛ぶ円盤から多次元・異次元テーマまで、一般の読者が入りやすい話題から徐々に難易度を上げながら語りかけているのに気がつく。「ついて来れるかな?」という著者の顔が目に見えるようである。 問題点がないわけではない。宇宙開発に関するあまりに楽観的な展望や優生学的な遺伝子制御に関するスタンスなどがそうである。ただSFは常に未来志向であり前衛的であり、既成の秩序や権威に疑問を投げ掛ける思弁小説である点は差っ引いて評価しなければならない。 むしろ気になるのは、スペース・オペラに対する著者の偏見というかスタンスだ。例えば、テレポートによる宇宙飛行や合成人間について語るとき、アイディア的に先駆者であるバロウズのバの字も出てこない。故人にしてみれば、あんなのをSFの代表だとSFの素人に思われては迷惑だという意識があったのだろうが、「あんなの」もまたSFなのだ。筒井康隆が士農工商イヌSFと自嘲していた文壇の状況は、つい昨日のことではなかったか。 だが、これ以上死者に鞭打つのはやめよう。日本人はすでに、日々SFの世界に生きている。一時代の役割を終えた檄文と啓蒙の書は、図書館の書庫に眠らせておこう。いつかまた不具のような好事家が検索して探し求めるその日まで。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.07.22 21:20:39
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