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偐万葉田舎家持歌集

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2020.05.08
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​​ ​今​日も「花」ですが、普通には「花」とは言わない花であります。
 昨日のカエデが「か」文字であったので、今日も「か」文字続きで樫の木、カシであります。
 時期的には、もう殆どのカシが花を落としてしまっていて、木の根元付近をを中心に、その周囲を薄茶色に染めて、その残骸が堆積しているのではないかと思いますが、これは4月16日撮影の写真です。

(カシの花)
​ これではちょっと分かりにくいので、もう少しズームアップして。

(同上)
 カシは雌雄同株。
 このように垂れさがっているのは雄花。雌花は若枝の付け根に直立した短いもので、目立ちにくいので、撮影は難しい。
 カシにも、アラカシ、アカガシ、シラカシ、イチイガシ、ウバメガシ、ウラジロガシなどと、色々種類があるようですが、この木がなんというカシなのかまでは分かりません。関西地方にはアラカシが多いというからアラカシかも知れないし、木肌が赤っぽく写っているからアカガシかも知れない。

(同上)
 カシの出て来る歌は、万葉集に短歌2首、長歌1首の計3首ある。長歌は高橋虫麻呂の「河内の大橋をひとり行く娘子を見る歌」で、ひとりにかかる枕詞の「橿の実の」という形で使われている。
<参考>河内の大橋をひとり行く娘子を見る歌については下記記事参照
 第2回ナナ万葉の会​ 2014.5.22.(現代語訳付き)
 銀輪散歩・霞立つ野の上の方に​ 2014.3.2.

 カシの実は、殻に一個の実がなるので、「ひとり」にかかる枕詞になったと考えられている。
 短歌の方は、額田王の歌と柿本人麻呂歌集歌の2首であるが、額田王のそれは上二句が未だ解読されていない難訓歌である。
 どなたか解読に挑戦なさいませんか。
莫木囂交圓隣之大相七兄爪湯気 わが背子が い立たせりけむ 厳橿が本
                                 (額田王 万葉集巻1-9)

手に余る 歌にしあれり 額田なる おほきみ詠める むつ橿が歌 (獏家持)
​​
 額田王の上二句は意味不詳であるが、三句目以下は「わがいとしい背の君が立っていらしたであろう、神聖なカシの木の下」という意味である。
 「厳
(いつ)​」という字が付されているのは、それが神聖なものであることを意味する。
 ​もう一つの柿本人麻呂歌集の歌はこれ。
あしひきの 山道も知らず 白橿の 枝もとををに 雪の降れれば
                 (柿本人麻呂歌集 万葉集巻10-2315)

 白橿も神聖な木。古事記歌謡にも「御諸の厳白檮がもと・・」というのがあり、「厳」が付されている。神武天皇が即位した地が橿原であるというのも、橿を神聖な木とする考え方と無関係ではあるまい。
 ところで、カシは、今は「樫」と表記するが、万葉集では「橿」と表記されている。「樫」というのは日本で作り出された国字であって、中国からの漢字ではない。中国で「橿」と言えばモチノキまたはマユミの木のことであるという。万葉人はカシに「橿」という字を当てたのである。
 昨日の記事の「楓」とよく似ている。
 こういうケースは他にも多くあるのだろうと思うが、今思い浮かぶ例としては「柏」だろうか。「松柏」という言葉があるように、「柏」はあの柏餅を包む葉の「カシワ」ではなく、本来はヒノキ(桧、檜)のことであった。それが、どこで間違ったか、カシワの木の表記としてしまったのである。
​ ということで、松柏の柏ではなく、松の花に話を進めます。
 と言っても松花堂弁当の話ではなく、文字通り、松の花の話である。
 以前に、アカマツの雄花、雌花の写真を掲載したことがあったが、今回はクロマツ(だろうと思うのであるが)の雄花、雌花である。

(松の花<雄花>)
 側面から伸びている茶色のものが雄花である。
 雌花は先端部分に「咲く」(と言っていいのなら)。

(同上<雌花>)
 植物には、裸子植物と被子植物とがあって、松は裸子植物である、などということは学校で教えられて知識としてはあるものの、さて裸子植物の花の構造などについては、詳しいことを教えられたのかどうだか怪しい、教えられたが忘れてしまったのか、或いは覚えぬままスルーしたのか、よく理解していない。
 従って、このアト、松ぼっくりがどんな具合に生るのか、イマイチよくイメージできないヤカモチであります。この花の観察、今後も継続する必要があるということになります。

(同上)
 松の万葉歌は多くある。萩や梅やもみぢの歌には及ばないが、桃や橘などと並ぶ多さで、桜よりもはるかに多く詠われている。
 しかし、松の花を詠んだ歌はこの1首だけではないかと。
松の花 花数にしも わが背子が 思へらなくに もとな咲きつつ
                     (平群女郎 万葉集巻17-3942)

 この歌は平群女郎が大伴家持に贈った歌であるが、家持からの返歌は残されていない。この歌は下記参考記事にも現代語訳付きで掲載していますので、ご参照下さい。
<参考>客坊谷から らくらく登山道へ​ 2020.4.13.
 その他の松の万葉歌もいくつか挙げて置きましょう。
白波の 浜松が枝の 手向け草 幾代までにか 年の経ぬらむ
                          (川島皇子 同巻1-34)
(白波が寄せる浜辺の松に、掛けられた手向けの幣は、どれほどの年月が経ったのであろう。)
磐代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば また還り見む
                        (有間皇子 同巻2-141)
(岩代の浜の松の枝を引き結んで、幸いにも無事であったなら、また帰りに見ることだろう。)
一つ松 幾代か経ぬる 吹く風の 声の清きは 年深みかも
                        (市原王 同巻6-1042)
(一本松よ、お前は幾代を経たのか。吹く風の音が清らかなのは、長い年月を経て来たからなのか。)
八千種の 花はうつろふ 常磐なる 松のさ枝を 吾は結ばな
                      (大伴家持 同巻20-4501)
(諸々の花は色あせ散ってしまう。常緑樹である松の枝を、私は結ぼう。)
 ​​​​本日は、「か」文字と「ま」文字の植物でありました。​​​





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最終更新日  2020.05.08 14:15:00
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