テーマ:政治について(19785)
カテゴリ:世界を見る切り口
ぼくの本業が「発電所づくり」だからか、この BBC報道 にはビビッと来てしまった。
3千名ちかくの英国軍に、米国・豪州・デンマーク・カナダのNATO軍 約千名が加わり、それをさらに千名のアフガニスタン国軍が警護する。 アフガニスタン南部のカンダハル (Kandahar) 基地まで空輸された水力発電所用の水車 (water turbine) を180キロ離れた カジャキ (Kajaki) ダム まで、先月8月末に100台の車輌で5日間かけて運んだ。 この水車を据え付ければ、カジャキ水力発電所の発電容量は3.3万キロワットから5.1万キロワットにアップする。 (↓ カジャキ水力発電所の既存の発電ユニットのようす) アフガニスタンの生活レベルだと、1.8万キロワットの新たな電力で190万人に恩恵が及ぶ。 * * * まずここまでを日本の新聞の論説委員や政治家諸氏に読んでいただき、この水力発電所増設大作戦に賛成かどうか決をとってみたいものだ。 「平和」の極みの水力発電所だ。 カジャキ・ダムの水量は豊富で、最終的には15万キロワットまで発電所を拡張できる余裕もある。 民生安定は平和の基(もとい) 。電力は民生の要(かなめ)である。 さあ、どうだろう、この大作戦に賛成だろうか? (↓ カジャキ・ダムのようす) わが自衛隊が輸送作戦に参加することについては、どうか。 米英のイラク侵攻に反対したカナダも軍隊を派遣しているぞ。 アフガニスタンの国軍も支援しているのだが。 さあ、どうだろう、この大作戦への自衛隊参加に賛成できるか? * * * 先遣隊が調査してタリバン勢の攻撃を受けにくい迂回ルートを見つけ、英・米・仏・蘭の軍用機が24時間体制で空からも掩護した今回の輸送作戦。 じつは、タリバン勢が執拗に撃ちかかってきたので、英軍の推計では 200 名以上を殺害することとなった。 報道によると、少なくとも英軍には死傷者はでなかった。 さあ、自衛隊が輸送作戦に参加していたとしたら、非道なゲリラ攻撃に友軍が反撃して叛徒がひとり死んだだけでも、「悪いのは自衛隊であり日本政府だ」みたいなことまで述べ立てられるだろう。 むかし、自衛隊が 「国際救助隊サンダーバード」 の役割を果たすことを夢想する本があって、そのキレイごと志向への批判を書いたことがある( 「サンダーバードの国家論」 )。 実際のところサンダーバードがアフガニスタンで活動を展開しようとすると、こんなふうにタリバン勢との銃撃戦も避けられないということだ。 * * * 中国製の水車を7つのコンテナーに解体梱包し、自国軍にいのちをかけて運搬させた英国。 かつてアフガニスタンを占領統治しようとして果たせず、今日に繋がる不幸の発端をつくった責任を償おうとしているとも言える。 その英国を掩護し協同した国々は、外交ポイントを稼いだ。 運搬の対象が中国製の物資であってみれば、中国共産党の軍隊も運搬作戦に象徴的に加わることもできたはず。 だがそうさせなかったのはやはり、ここで中国に加わらせると今後の中央アジア争奪戦において中国がどんな権益を求めてくるか分からぬという懸念があるからだろう。 先進諸国がそれぞれに悩みながら展開するイスラム極論主義テロとの戦い。 銃撃戦リスクが極小で、中東原油の輸入国として安全な輸送路を確保するためという (国内政治的にも) 大義名分が立つのが、印度洋での給油活動だ。 せめてこれだけは日本国として続けねばならない。 国内政治的な経済政策の懸案は多いけれど、国家としての喫緊の課題は今年もまた印度洋の給油活動継続の一件だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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佐衛門さん、前半のわたしの論旨のポイントは、水力発電所用の機器の輸送という いかにも「平和」な活動も 200 名の敵ゲリラを殺害することでようやく成り立っていることです。
世の現実がキレイごとでは成り立っておらず、それに冷徹に対処することに静かな誇りを見出している先進諸国の趨勢に日本の政界・メディアがついていけないでいることを挑発的に浮き上がらせようとしたコラムです。 お説のとおり現在の自衛隊派遣に関連する法制では銃撃戦への十分な対応、とりわけ友軍への攻撃に対する反撃が十分にできませんから、今のままではアフガニスタンへの自衛隊派遣は無理なのです。 だからせめて印度洋の給油活動は継続せねばならないというのが結論ですので、そこのところをお読み取りいただければと思います。 (Sep 8, 2008 07:44:23 AM)
現地の実情を知らないので教えていただきたいのですが、タリバンは何を攻撃しようとしたのでしょうか?
今までダムと発電所が機能していることを考えると、タリバンも昔は統治者だったので被統治者(普通の国民、恐らく農民)の不利益になる事をすれば再び統治者にはなれ無い事は理解していると思われます。 護衛の人数が少なければ身代金目的で水車を強奪することが考えられますが、今回の場合それは無いので護衛の軍隊が襲撃の目的になったと考えられますが、実情が分かりません? それと、海賊に乗っ取られたケミカルタンカー「アイリーン」の続報は何かありますでしょうか? (Sep 8, 2008 05:43:18 PM)
田吾作さん、水力発電所の増設工事が成功して民生に役立てば、先進諸国はアフガニスタン国民に面目をほどこします。
だからこそ、いのちをかけた大作戦を展開したわけです。 ぎゃくに、西洋的近代文明を否定することに自分の位置を見出すタリバンとしては、水力発電所増設工事を西側諸国のなすがままさせておいては、威信に傷がつく。 だから、阻止しようとするわけです。 だから、テロリストに分類されるわけです。 水力発電所の水車だとは分からないようにコンテナーに分割梱包した、と報道にはあります。 お説のとおり、タリバン側がどういう認識で攻撃しかけてきたのか、言い分を聞いてみたいですね。 (Sep 9, 2008 12:13:08 AM) |
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