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2020.01.05
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二日目にようやく意識を取り戻した男はしばらく辺りを見回し、がばっと身を起こした。

「ここはどこだ?俺はどうした?俺は何をしている?あ痛たたたた。」

男は思わず、崖から落ちたときに打った腰をおさえた。

傍でおしぼりを代えていた蘭は驚いて右目の上にあるハートの模様のある顔を男に向けた。

「芹、小文吾さんたちにお知らせして。」

「うん、わかった。」

蘭の言いつけに芹は家を飛び出して畑に走って行った。

小文吾は信乃たちと畑仕事を手伝っていたのだ。

 

「俺は犬山道節忠与。武蔵国豊島郡の生まれだ。」

「犬山道節忠与?武蔵国豊島郡の犬山道策貞与様とは近縁のお方か?」

信乃は道節の名乗りに思わず尋ねた。

道節は大きな目玉をぎょろりと思わぬ名前を発した信乃に向けた。

「俺の親父だ。」

今度は信乃が目玉をぐるりと回した。

「わが父番作が死去したのち、大塚蟇六様に引き取られた折、訳あって養女として来た浜路の父君が犬山道策様なのです。浜路は私と夫婦の契りを結んだ仲なのです。」

「浜路・・・・」

道節は浜路の名を聞き、押し黙った。

「如何なされた?」

道節は重い口を開いた。

「浜路の母親は親父の側女だったのだが、まだ幼い俺を殺して正妻の座を奪おうとしたが失敗して断罪された。浜路は断絶され大塚家に養女に出されたのだ。だから浜路は母の異なる妹になる。」

「なんという因果なのだ。」

それを聞いて信乃は絶句した。

「浜路は達者に暮らしておるか?幼いころ仲良く遊んだことを覚えている。」

懐かしむ道節の言葉に信乃はうなずいた。

 

道節は父が仕えた煉馬氏が扇谷定正に滅ぼされ、父も討たれたため扇谷を敵と狙ううちに追われる身とになり、逃走の途中で偶然追いはぎに捕らえられた雷を救ったのだが、その後逃げ込んだ山中で足を踏み外して谷底に転落してしまった。

しばらくして気づいてどうにか山里まで降りて来たものの、そこで再び気を失ったところを蘭に救われたのだった。

 

「ところでお主は里見八犬士の一人であることを知っているのか?」

「八犬士?」

荘助の言葉に道節は怪訝な顔をした。

信乃は八犬士にまつわる不思議な縁を話して聞かせ言った。

「そなたの左肩の牡丹の痣、忠の文字の珠。まごうことなく八犬士の一人なのだ。」

信乃は左腕、荘助は背中、現八は右の頬を見せた。

道節は一つ一つ見つめ、最後に小文吾に向かって尋ねた。

「してお主は?」

小文吾は巨体に似合わぬ真っ赤な顔の恥じらう表情で道節を伴い、隣の部屋に消えて行った。

しばらくして、「おお」という道節の素頓狂な声が聞こえてきた。

襖が開き、道節が豪快な笑顔で戻り言った。

「見せてもろうたわ大牡丹を。大きな尻に見事に咲いておったわ。」

そう言って再び嬉しそうに、小文吾の肩をポンポンと叩いた。

 

やがて、小文吾、信乃、現八、雷の四人は芽恵の親を探しに山へ出かけて行った。






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最終更新日  2020.01.05 00:00:19
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