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2020.01.16
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犬山道節は偶然婚礼の執り行われる場に行き合わせ、今や遅しと花嫁の到着を待つ人ごみの中で、一人腕を組み仁王立ちしていた。

彼がここにこうしているのには訳がある。

陣代・簸上宮六(ひかみかんろく)の嫁に大塚家から浜路という娘が輿入れすると聞いたからだ。

浜路は彼の異母妹であり、八犬士の信乃の許婚の間柄だったからだ。

幼いころの浜路を知る道節には、何事にも一途な浜路がそのようなことをするはずがないことは明白だった。

陣代の花嫁を一目見ようと黒山の人だかりで、通りは立錐の余地もない有様だった。

一刻、一刻と輿入れの行列がやって来るのを待つ群衆の中から次第にざわつく声が目立ち始めた。

もう一時も過ぎたというのに、行列が来るという知らせさえないのだ。

 

その時である。

「きゃー」

女の叫び声が上がった。

馬の背中に横たわった一人の男が血だるまになってさ迷い出て、駆けつけた簸上の家臣にこう言うなり果てた。

「花嫁は、花嫁は、は、は、浜路様は暴漢によってさらわれましてござりまする。」

 

道節は思いがけない事態に動揺しながらも、彼の行動は素早かった。

花嫁の行列が来るはずの街道をひたすら走り、ようやく向こうに襲われた行列と思われる惨状が目に入って来た。

付き人の死体、輿入れの道具が散乱していた。

道節は素早く辺りを探り、人が通り抜けたらしい倒されたすすきの穂を見つけ一目散に走りこんだ。

暴漢は一人、抗う花嫁の浜路を引きずりながら山奥に消えたのは一目瞭然だった。

やがて道節は藪から山肌の小道に出た。

右か左かどちらに向かったか?

不思議なことにそのどちらにも、人が通った痕跡はない。間もなく雪も降ろうかという頃、道に積もった枯葉は踏み荒らされた形跡がないのだ。

道節ははたと考え今来たところを引き返した。

暴漢は追っ手を考え、ここから引き返して、途中のどこかで行く手をそれたのではないかと考えたのだ。

彼はそばの茂みを丹念に探りながら戻って行った。

その時、きらりと光るものが目の端に飛び込んだ。

拾い上げるとそれはかんざしだった。

「こっちだ。」

道節は一声放つと猛然と突き進んだ。

きっと浜路が行き先を知らせるためにわざと落としたに違いない。

 

道節は今度こそ途方に暮れてたたずんだ。

目の前には川が横たわっていたからだ。

 

川の中を行かれてはどこに渡ったかを知ることは困難になる。

対面の岸にやはり足跡はなかった。

こうなれば対面の岸という岸を丹念に調べるしかない。

しかも、渡ったかどうかも定かではない。

引き返してこちら側の岸に戻っているかも知れないからだ。

 

道節は意を決した。

こうなったら周辺をくまなく調べるしかないと。

 

「お侍さん、誰か探しとんの?」

道節が後ろを振り向くと白い猫がちょこんと座っていた。

鞠という名前の女の子だった。






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最終更新日  2020.01.16 00:00:21
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