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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
「喜利!喜利!」 蘭は妹の名を叫びながら峠の坂道を走り降りてきた。 「姉さん!蘭姉さん!」 喜利は姉の姿を見つけた時から走り始めていた。
二人の姉妹は峠の真ん中で固く抱き合った。 喜利が山賊にさらわれて五年が経っていた。 喜利は山賊たちの中で逞しく自分の居場所を作り上げ、逃げ出そうと思えば可能だったかも知れないながら、さらわれて来た人々を密かに逃がし、姉である蘭の元に送り届けることで山賊たちに復讐をして生きてきた。 だが、その山賊たちも信乃たちの活躍で志茂たち役人に身柄を引き渡され、こうして喜利は晴れて我が家に戻れることになったのだ。
『いつか必ず助ける。』という信乃の言葉はここに実を結んだのである。
父五里の蘭、喜利、芹の三人娘にもようやく春が巡って来た。 従妹の百合も父五里夫婦とともに行商に出かけている両親が戻るまで蘭の手伝いをして共に暮らす。 庄屋の寄り合いで奉行所に集められていた蘭の夫も戻って来た。
芽恵の両親喜二男と露穂路は不毛な土地の開墾に耐えかねて、家を捨てて他に移り住む道中で山賊たちに捕まり、幼い芽恵だけはどうにか生き延びてもらいたいと、引き裂かれる思いで山中に置き去りにしたところを、小文吾に救われ再会を果たすことまで出来た。 喜二男夫婦は蘭の夫が持つ山の一部を小作として借り、百姓を続けることになった。
犬山道節も体力を回復し新たな旅立ちの準備はすっかり出来ていた。 再会そして別れの時がやって来たのだ。
「喜利さん、長い間ご苦労様でした。今度は自分の人生をのびのび生きるんだ。」 信乃は喜利の両手を包んで優しく微笑みあった。 「蘭さん、おかげで今じゃこの通り腰の痛みも取れた。崖から落ち時に打った頭のこぶが痛むがな。」 「お前の石頭なら、当たった岩の方が砕けちまってるぜ。」 道節の言葉に現八はすかさず突っ込んだ。 「百合さん、あの芋汁はおいしかった。きっといいお嫁さんになれる。お達者で。」 密かに恋心を寄せる百合に気づいた荘助はさりげない別れの言葉を送った。 「芹ちゃん、短い間だったけど随分大人になったな。元気で暮らすんだぞ。」 小文吾はそう言って、八つ手のような大きな手で芹の頭を撫でた。 「小文吾さんは私の命の恩人。忘れません。」 芹は涙を浮かべて小文吾にしがみついた。 「メー、メー」 小文吾が足元を見ると、巨木のような小文吾の足を芽恵が抱き抱えて叫んでいた。 幼い芽恵は何か言おうとすると、つい山羊のようにメー、メーと言ってしまうのだ。 小文吾は芽恵を抱き上げ顔の前まで持って来て言った。 「お父さん、お母さんに会えて良かったな?」 「芽恵、おじちゃん大好き。」 芽恵はそう言って、小文吾の両頬をぴたりと両手で挟んだ。 小文吾は芽恵の鼻を鼻でこすってにっこり笑い、喜二男たち夫婦にそっと渡した。
では皆さん、これでお別れです。幸せにお過ごしください。 信乃の言葉にお辞儀を交わして、別れて行った。
それから信乃、小文吾は相模箱根方面へと八犬士探しの旅に出かけ、現八は丶大を知る荘助とともに玲央から聞いた八犬士を求めて旅立った丶大と犬江親兵衛に会うべく、下野に向かうことになった。 道節は父の敵と目する扇谷定正の追っ手を逃れて単身甲斐の国へ向かうことにした。
果たして雷は?
「おいらかい?おいらは気ままな旅烏よ。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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