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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
四歳の親兵衛は犬の比瑪とともに白づくめの老人に頼まれた白猫の鞠を探す旅に出た。 比瑪は犬の鋭い嗅覚でかすかに残る鞠の匂いをかぎ取りながら進んで行く。 二人は川を渡り、野を抜け、山を越えて、街を巡った。 そして鞠の匂いは確実に強く大きくなるのに励まされ、あともう一息の所までたどり着いていることを実感していた。 そして行き着いた先は、一軒の大きな屋敷だった。 だが、その屋敷の入り口には弔いの提灯が下がり、かがり火が赤々と焚かれていた。 親兵衛がその家に向かうと、入り口の陰で白猫が中を窺っているのに気付いた。
鞠だ。
比瑪は親兵衛にうなずいた。 親兵衛が鞠の後ろから近づくと、鞠は気配を感じてハッと振り返った。 「あなたは誰?」
親兵衛は今までの経緯を話して聞かせた。
「あなた役行者(えんのぎょうじゃ)様に言われて私を探しにやって来たの?」 鞠はそう言って安房の国、館山にある洲崎明神に向かって舌打ちをした。 「どうしたの?」 親兵衛は不思議に思い尋ねた。 「役行者様ったら、私が浜路さんを助けに行くって飛び出したのに聞こえなかったのね?仙人とは言え八百年も生きていたら耳も遠くなるわよね?」 「八百年?仙人?あのお爺ちゃんが?」 鞠の言葉に親兵衛は驚いて叫んだ。 今度は鞠が今までの経緯を話した。
継母に騙されて動けない状態にされたまま嫁に出される道すがら、浜路と犬塚信乃の仲に横恋慕する網乾左母二郎(あぼしさもじろう)にさらわれた浜路を助けようと、それを追う犬山道節という侍を山中に導いたのだが、時遅く浜路は左母二郎に刺された直後だった。 左母二郎は道節に切り捨てられたが、既に虫の息の浜路は最期に腹違いの兄道節に、幽霊となってももう一度信乃に会って別れを告げたいと言い残して亡くなったという話を聞かせた。 鞠が窺っていた屋敷は、輿入れ前に殺害された浜路が送り返された実家の大塚家だったのだ。 「犬塚信乃様って八犬士の一人の?僕、丶大様にお聞きしたんだ。僕もその八犬士の一人なんだって。ほら!」 そう言って親兵衛は『仁』の文字が浮かび上がる珠と、父の山林房八が小文吾と争ったときに誤って蹴りつけた際に出来た左わき腹の牡丹の痣を見せた。 「可愛い犬士さんね?」 鞠はそう言ってクスっと笑った。 「僕はまだ四歳だけど、お爺ちゃんのお願いを叶えるたびに5才歳をとり、いつか八犬士の人たちに追いつけるってお爺ちゃん言ってたもん。」 そう言って親兵衛は胸を張った。 「お二人とも、事情は分かったのですからそろそろ役行者様の所に参りませんか?」 比瑪に促され二人は屋敷を後にした。
「行者様?浜路さんを守りに行って来ますと言ったではありませんか?」 白猫の鞠はそう言って行者に食って掛かった。 「おお、そうじゃったかの?わしはてっきり浜路とお参りに行って来ますと言って出掛けたまま戻れなくなってしまったと思うちょったよ。」 「『浜路さんを守りに』を『浜路さんとお参りに』と聞き間違えたのね?もうしっかりしてよ、仙人とあろうお人が。」 役行者の言葉に鞠はキッと言い返したが、結局4人は大笑いした。
ひとしきりの笑いが収まった頃、役行者は9歳の少年に成長した犬江親兵衛に次なる課題を投げかけた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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