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2020.04.30
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暗い夜道を見つめる四つの光る瞳。

暗くとも利く猫族の雷と千代の視界はこの逃避行には欠かせないものとなった。

甲斐の国から現八たちが向かったという穂北荘へ向かうために、信乃、小文吾、浜路は猫族の若者に導かれ峠越えの途上であった。

五人はあと二里ほど行けば武田領の甲斐の国を抜ける所までやって来ていた。

だがもうそろそろ夜が明ける。

夜が明ければどこかに身を隠し、次の暗闇が訪れるまで待たねばならなくなる。

「千代坊、お前の目には何か怪しものは見えるかい?」

雷は千代に問いかけた。

「いや、今の所何も見えない。でも夜が明けると人族の視界も俺たちと変わらなくなるから、そろそろ隠れる場所を探さないとまずいな。」

千代はそう言って辺りを見回し、小さな小屋が林の向こうにあるのに気付いた。

かなり朽ち果てた小屋だが、隠れるにはよさそうだった。

もう東の山の端は白み始め、人の目にもかなり遠くまで見渡せるようになって来ていたその瞬間、向こうの山道から数人の人影が不意に現れるのが見て取れた。

「あれは兵士だ。泡雪の手の者だきっと。」

そう言うや否や五人は先ほどの小屋に向けて小走りに進み駆け込んだ。

間もなく二十人ばかりの兵士がほんの数間先の所までやって来た。

 

やはり泡雪の家来達だった。

 

その時だった。

一人の百姓が山林の小道から姿を現し、信乃たちが身を隠す小屋へと近づいて来た。

百姓は朝陽が昇り切る前には畑仕事を始め、夕陽が落ち切る前には仕事を終えて家路に戻る。

まずいことに信乃たちが身を隠したこの小屋には農機具が置かれており、彼はそれを取りにやって来たようだ。

彼はいつものように、いつもの道を来て、いつもの様に小屋の戸を開けた途端、いつもならざる光景を目にして大きな声で叫んで尻もちをついた。

当然、泡雪の兵士もこの騒ぎに気付き一目散にやって来た。

「おい百姓どうした?」

兵士の怒鳴り声に、百姓は震える指先を小屋の中に向けて叫んだ。

「中に人が・・・・」

たちまち兵士たちは小屋の戸の前まで来た途端後ずさった。

中から犬塚信乃が刀を構え、肩に雷を乗せた犬田小文吾が肩をいからせて現れた。

その後ろに浜路を庇い、それを守るように千代が必死に寄り添っていた。

「殿をお呼びしろ。」

一人の兵士が部下に命じた。

浜路姫達であることは察しが着くが、人相を知る泡雪に確認を仰ごうというのだ。

たまたま近くを視察していた泡雪奈四郎が息を切らしてやって来た。

「おおでかした。即刻捕らえよ。」

泡雪が家来に命ずると、加勢にやって来た兵士たちも加わり五十名ばかり兵士が信乃たちを取り囲んだ。

これほどの多勢を相手に、小文吾は目を病んでおり、雷が目の代わりをしていると言っても十分な働きは望めない。

信乃一人ではとても勝ち目はないだろう。

だが信乃は決してあきらめず、握る刀を正眼に構えた。

「構わぬ女以外は皆切って捨てよ。」

泡雪の号令に兵士たちは気合を込めて二人に詰め寄った。

まずは数人の兵士が意を決して飛びかかったが、次の瞬間ばたばたとやられてしまった。

「何をしておる。早く始末せぬか。」

泡雪の狂ったような叫びに兵士たちが一斉に飛びかかろうとした瞬間、遠くから馬のひづめの音が聞こえてきて、十人ばかりの騎馬武者がやって来た。

「こら、泡雪、お前の悪事はすでに露見しておるぞ。」
泡雪が振り返ると、すっかり昇った朝陽を背にした騎馬武者の先頭の男が怒鳴った。

「わしの放った間者が昨日伝えて来たから、密かにお前をつけていたのだ。」

泡雪の顔は見る見る血の気が引いた。

「と、殿。そこにおります女は里見家の姫の浜路姫にござります。あの女を捉えれば安房の国調略の糸口となりますゆえ・・・・」

「黙れ泡雪。わしはそのようなこと望んではおらぬ。それよりもお前の成した所業決して許し難し。お主、猿石村村長の四六城木工作を殺害したであろう。既に明白なるぞ。」

泡雪が殿と呼ぶその武士は、その後に来る戦国最強の軍団を率いる武田信玄の曽祖父武田信昌であった。

信昌は甲斐の名君と呼ばれた人物であった。

 

「武田信昌様。危ういところをお助けいただきあり難きことにござりまする。」

「いや犬塚殿、謝らねばならぬのはこちらの方じゃ。わしの家臣がそなたたちに大変な難儀を働いてしまった。以前より内々に調べてはいたのだが、遅くなりかくなる迷惑をかけてしまい、取り返しのつかないことに及ぶところであった。どうか許していただきたい。」

信乃の言葉を遮り、信昌はそう言って馬を降り首を垂れた。

一国の主が、里見家ゆかりの者とは言え一介の者に頭を下げるとは。
信乃たちはその名も高き武田信昌の人柄に感服するばかりであった。






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最終更新日  2020.04.30 00:00:20
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