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2020.05.03
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細い小道を抜けると小さな小川の岸にたどり着いた。

小川はさらさらと小気味よい音を立てながら、そよ風の下を流れていた。

ふと足元を見ると小魚が数匹、ゆらゆらと揺れる日差しの中で気持ちよさそうにたたずんでいた。

蛙が一匹ポチャンと飛び込み、水面は揺れ波が弧を描きながら広がって行く。

浜路が乱れた水面を見つめていると、やがて小川の淀みは再び水鏡に戻った。

彼女はその水面に視線を合わせると、黒い影が映っていることに気づいた。

ハッと我に返り、その陰の映った先を見ると奥深い優しさをたたえたあの笑顔が彼女を迎えた。

「浜路さん、私です覚えておいでですか?」

その声に浜路は輝くような笑顔を返して言った。

「瓜太さん。」

瓜太は伏姫に仕える猫族の男性で、浜路が左母二郎に刺されて死んだときに、二つに分けられたもう一つの魂の浜路姫の体へと導いてくれたのだった。

「浜路さん、今日私はお伝えしたいことがあって来ました。」

浜路はその言葉を聞いてふと恐ろしいことが脳裏に浮かんだ。

「もしや私の魂が・・・」

だが瓜太は両手を押しとどめるように前に突き出し、安心させるように再び微笑んだ。

「いえ、あなたの事ではありません。小文吾さんの事です。」

「小文吾さん?」

浜路は思いがけない名前を聞いて聞き返した。

「そう小文吾さんです。小文吾さんの目を癒す方法をお伝えしに来たのです。」

悪女船虫に毒を盛られて視力を失った小文吾は、信乃、浜路とともに穂北荘にいるはずの荘助たちの所へ向かっているのだが、今は浜路が小文吾の目となり手を引いていた。

「瓜太さん、是非、是非お教えください。」

浜路は必死に頼んだ。

「大丈夫。小文吾さんの目はすぐに治せます。ただそのためには八犬士の方の協力が必要なのです。小文吾さんは悌の文字の珠、信乃さんは孝の珠をお持ちです。後もう一つ、三つの珠を神社に湧く御神水に三日三晩浸し、その御神水を浸した布で目を清めなさい。そうすればたちどころに治ることでしょう。」

そう言って瓜太は背中のハートの模様を揺らしながら小川の向こうに去って行った。

 

「はっ」

そこで浜路突然身を起こした。

どうやら夢を見た様だ。

だがこれはただの夢とは思えなかった。

翌朝、浜路は信乃と小文吾にこの話をした。

「それはおそらく伏姫様からのお言伝なのではあるまいか。」

小文吾はそう言い、信乃もうなずいた。

 

「千代坊、ちょっとここらで一休みしないか?」

雷は千代にそう話しかけた。

「そうだな、おいらもそろそろ休みたいと思っていたところだ。」

そう言って千代もうなずいた。

二人は今、道節と毛野を追って武蔵の国の鈴茂林に向かっていた。

小文吾と信乃が浜路と共に穂北荘へ向かったことを伝えるために。

鈴茂林には扇谷定正の家臣である竜山免太夫(たつやま めんだゆう)がおり、これは毛野が父の仇と狙う籠山逸東太(こみやま いっとうた)が名を騙っていたのだ。

雷と千代はさっそく火をおこし、川で獲った魚を焼いて食べ、少し横になることにした。

二人がうとうとし始めたとき、何かがさっと走り去るのに気付いた。

千代は自分たちが食べ残していた川魚が一匹なくなっているのに気付いた。

雷は数間先の藪が揺れて、何かがかき分けて行った後を見つけた。

二人がその藪の向こうを覗くと、一人の黒い猫の少年が魚をむさぼり食っていた。

「おいお前、おいらたちから魚を盗んだな?」

千代が言うと少年はハッと振り向き、両手に握った歯形の残る魚を背中の後ろに慌てて隠した。

「お、お、俺・・・」

少年は震えていた。

その時千代は、その少年の胸に白いハートの模様があるのに気付いた。






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最終更新日  2020.05.04 14:02:03
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