|
カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
山中で賊に襲われた折に、祖母妙真の腕の中から神隠しに合い姿を消した四歳の犬江親兵衛は伏姫の庇護により、役行者の課す三つの試練を乗り越えて今や十九歳の若者へと成長していた。
穂北荘には犬塚信乃、犬川荘助、犬飼現八、犬田小文吾、犬村大角の五犬士が揃った。
鈴茂林では犬山道節と旅する犬坂毛野が籠山逸東太(こみやま いっとうた)を討ち果たし、積年の宿願を成就させた。
ここに、関八州に散らばった伏姫の子たる八犬士がすべて連なることとなった。 そしてその時。
八犬士の掌の中で、それぞれの珠は光を増して燦然と輝いた。
それに導かれて八犬士は穂北荘へ向かって歩み始めた。
だがその陰で彼らを支えた、ハートの模様を体に宿す八人の猫族も穂北荘を目指す運命に身を委ねた。 雷、千代、連、瓜太、蘭、喜利の六人の猫族。 そして今、螺良猫団を引き連れる佐飛にもその呼ぶ声が届いた。
「母さん、痛えよ。俺、死ぬのかな?」 茶トラ猫の茶阿は言った。 実の母であるサビ猫の佐飛はハート模様の眉間に皺を寄せて息子の手を握った。 「死ぬもんか。あんたは私の倅だよ。絶対に死ぬもんか。」 そう言って彼女はぐっと唇を噛んだ。 茶阿は三日前、悪徳の限りを尽くして暴利を貪る代官の屋敷に忍び込み、お宝を盗み出そうとしたが、あいにく家来に見つけられ傍にあった油ごと火をかけられてしまった。 火だるまになった茶阿だが、必死に逃げて姿をくらまし、瀕死の重傷でここ螺良猫団の隠れ家までたどり着いた。 茶阿は体中に薬膏をすりこまれ、包帯を巻かれて三日間気を失ったままだったが、今どうにか気が付いたところだった。 周りでは頭領の螺良、仲間の菜奈、空、桃、寧々が心配そうに茶阿を覗き込んでいた。 それから三日、茶阿は火のような熱を出して気を失い再び眠り込んでしまった。 火傷を負って六日目の朝、茶阿はまだ外が明けきらぬ薄暗い部屋の中で目覚めた。 傍らでは佐飛がしゃがみ込み、前かがみにこくりこくりと眠り込んでいた。 彼女の手にはすっかり体温で生暖かくなったおしぼりが握られていた。 「母さん、佐飛母さん。」 茶阿は弱々しいがはっきりした声で母の名を呼んだ。 佐飛は呼び声にハッと目覚め、茶阿の傍へ慌てて身を寄せた。 「母さん、俺、夢を見たんだ。大きな犬に跨ったお姫様が俺と母さんに、武蔵の国の穂北荘まで来てもらいたいと言ったんだ。」 「穂北荘?」 佐飛は茶阿の言った言葉を繰り返し続けた。 「そんなこと言ったって、お前の体じゃ無理ってもんだよ。」 だが茶阿は起き上がると安心させるように体を捻りながら言った。 「そのお姫様が、俺を呼び戻して体を治してくれたんだ。俺、もうちょっとで川を渡れそうだったのに。」 眉間にハートの模様を持つ佐飛は目を丸くして叫んだ。 「お前、それ三途の川だよ。そのお姫様がお前の命を救ってくれたんだよ。」 茶阿は何も言わずうなずいた。 「きっと、私とお前にはまだ何かやることが残っているのかねえ?」 茶阿は首を傾けた。 「きっとそのお姫様は伏姫様に違いない。」 茶阿は納得したようにうなずくと、自分の羽織を取ろうと背を向けた。 「茶阿、お前の背中!」 佐飛は思わず叫んだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ニャン騒シャーとミー八犬伝] カテゴリの最新記事
茶阿の背中にも、ハートの印が出てきたのね。
三途の川を渡らずにすんで、良かった。 (2020.05.31 21:02:23)
そうなんですよ
チャーの母親はサビ猫‼️ (2020.05.31 21:10:23)
ララキャットさんへ
チャーは三猫の兄貴分としていつか別の作品で考えられないかと思っています。 (2020.06.03 00:57:07) |