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カテゴリ:我が良き虫の世かな
アリの国の五代目王ギド・アントンは今、目をクリスマスのローソクの様にキラキラ輝かせる子供たちの視線を浴びながら、この国の建国者アントンとイブリンの冒険を話し終えようとしていた。 「アントンは来る日も来る日も国のために働き、働き疲れた者は首をちょん切られて草むらにゴミくずの様に捨てられてしまうアリ社会に疑問を持っていた。 そこで危険な疑問を持つ者が増えてきたと危機感を募らせた女王アリの側近は、そんな不穏分子をまとめて箱に詰め川に流してしまった。 アントンたちは詰め込まれた箱から抜け出し川を流れる木切れに乗り移ったものの、その木切れは海へと流れ、今度はつらく長い航海となった。 そのうちに仲間も一人、二人と命を落とし、諦めかけたとき、この島にたどり着いたのだ。 そのとき生き残っていたのが、初代王のアントンとその妃イブリンだった。 二人はつらい日々を乗り越え、少しずつ畑を耕し、子孫を残し、やがてそれは増え広がり、今こうしてこの国へと栄えているのだ。 だから・・・・」 彼が最後の言葉を継ごうとしたしたとき、部屋の隅で子どもが言い争う声がした。 「返せよ。それ僕んだ。」 「うるさい、僕が先に見つけたんだ。」 「でも僕が先に手に取ったんだから僕んだ。」 ギド・アントンがそちらを見ると、二人の男の子が小さな飴玉を巡って言い争っていた。 親が持たせた飴玉を誰かが一つ落としていたのだろう。 「君たち、つまらない争いはやめなさい。私は今、この国の成り立ちについて話しているところなのだよ。」 ギド・アントンはここで大きく息をつくと言った。 「アントンとイブリンは皆が平等に暮らす幸せな国をめざして二人、二十人、百人、千人と子供を増やして行ってこの国を作り上げたんだ。 さっき言いかけた最後の言葉をここで私に言わせてくれるかい?」 そこで彼は子どもたちを見回した。 彼はニコリと微笑むと最後の言葉を言った。 「だから、私たちは皆家族なのだ。」 子どもたちの真剣なまなざしが一心に彼に向けられた。 その時、一人の子どもが飴玉を取られた男の子に自分の飴玉をひとつ渡した。 受け取った子どもは驚いてくれた子どもを見つめた。 すると、次から次へと子どもたちはその言い争っていた二人の男の子に、自分の飴玉をひとつずつ交互に渡して行った。 やがて二人の男の子は胸に抱えきれないほどの飴玉をもらっていた。 二人の男の子は目に涙をいっぱいためてその場にうずくまり、胸いっぱいの飴玉は床にこぼれ落ちた。 他の子どもたちも自分たちの飴玉を床の上に落とし、子どもたちの真ん中に大きな飴玉の山が出来た。 子どもたちはそこで屈託ない笑い声を上げなら、楽しいひと時を送った。 そんな様子をギド・アントンは目を細めて見つめ天に向かってつぶやいた。 「アントン、イブリン、わが父母よ。ご覧ください。お二人の子たちはあなた方の心を受け継いで立派に育っています。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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戦争の多い世界にもこんな国があればいいな。
(2020.12.17 16:19:27)
こんばんは ^^ ☆
アリのアントンとイブリンの子孫は、王の建国物語を聞き、思いやりの精神を感じ取ったのですね。 この子達の未来は明るくとっても面白かったです♪♪ (2020.12.18 01:00:21)
空夢zoneさんへ
きっといつか人間社会はアントンの国に追い越されるでしょう。 理想の国家という事では既に追い越されています。 そのうち人間の子供がアントンの国でギブ・ミー・チョコレートとか言い始めるかも知れません。 (2020.12.23 04:59:42)
simo2007さんへ
国の基盤はしっかり子供を育てることですね。 学校で掃除をする日本の子供を見て外国の人は驚きます。掃除は掃除人がやると思い込んでいるからです。 このしつけは日本が世界に誇っていいしつけだと思います。 (2020.12.23 05:03:27) |