|
カテゴリ:ファンタスティック・パロダイス
私はもう40年以上前になるだろうか?『帰って来た酔っ払い』で一世を風靡した当の本人である。あの時は畑のど真ん中で目が覚めてあれは夢だっかのかと思ったのだが、左手ににぎりしめていた天国のおちょこを見て事実だったのだと分かったのだった。 私のその不思議な体験がテレビで取り上げられ、一夜にして時の人である。テレビにラジオに雑誌に登場してもう引っ張りダコだった。それからバラエティ番組や対談番組、果てはドラマや映画にも出たし、飲酒運転撲滅キャンペーンで公共広告にも出たし、そのうちこれを歌にして歌ってみないかという話が持ち上がったが、歌だけは勘弁してくれと当時結成したばかりの何とかというフォークソング・グループに歌ってもらう事にした。 訛りもすっかり取れて今ではちょっとした知性派タレントとして地位を築き、今日もゴールデンタイムの番組を一本終わって、たまには夜道を歩いてみたいと運転手はもう帰らせて、徒歩で帰宅する途中である。 さすがにもう70歳だ。この辺でそろそろ引退して勝手気ままの自由な生活で余生を送ろうか?とも思う。 デビューと言っていいのか分からないが、あの頃は垢抜けない田舎青年だった私も、今では随分垢抜けたものだと自分でも思う。 だから、「これだけは。」とひたすら守って来た禁酒だが、「そろそろこれもいいかな?」とも思う。 おや?あんな所に赤ちょうちんがあるではないか。暖簾をくぐると有名人は辛いもので、「お代は結構。来てもらっただけでPRになるから。」と、飲むは飲むは何せ40数年振りだもの。出る頃にはすっかり久しぶりの酔っ払い~。 ふらふらと店を出て、路地をふらふら、公園では花壇に肥やしを空中散布、ノラ猫を蹴飛ばし、角を曲がって、 キキキキー!!!!! おっと危ない危うくお陀仏になる所だった。やっと自宅の超高級高層マンションに到ちゃーく。3人目のかみさんとも最近別れ、再び気ままな一人暮しと来た。エレベータは?ああ、来た来た。えーと38階と、ボタン、ボタン。エイ!どうだ!悔しかったら迎えに来やがれ! エレベータ君、ご苦労ご苦労。ああ久し振りに飲んだぞ、うまかった~とくらあ。 35、36、37、さあ次だ降りるぞ~!38、39?、40??、43、44、45、46?????このマンション45階建てだぞ、エレベータも酔っ払ってんのかぁ~? 784、785なんじゃこりゃ?1059階!あっ停まったやっと。冗談じゃねえ、酔いどれエレベータめ! ドアが開くと遠い記憶の向こうから微笑む様に、あの時と変わらぬしのぶの笑顔が。 「あーらお兄さん、お・ひ・さ・し・ぶ・り。」 その向こうで怖い顔をした神様が、「今度はゆっくりして行ってもらうよ。」 え?え?え?ええええええええ? しまったあの角を曲がった時!? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ファンタスティック・パロダイス] カテゴリの最新記事
|