|
カテゴリ:BL小説
『エス』英田サキ とっても評判高くて、続編も好評で、密林のレビューも、BLブログの評を読んでもほぼ大絶賛。これまで読んだ2作が「?」だったので、今度こそと期待をかけていたのだが……やはりハマれない作家さんの一人だった。 『エス』のどこに腐女子が萌えたか。やっぱりあの緊張感のある共依存関係なのかな。 刑事とやくざ、裏工作とスパイ、中国人マフィアと密貿易、麻薬と拳銃など、ハードボイルド要素満載なのに、女子にわかりやすく理解させようとするあまりに、なんだか半熟卵になってしまっている。 警察庁と警視庁の違い、それぞれ独自のルートで情報屋を使い、難事件をコツコツと解き明かしていく刑事たちの話は、高村さんの小説で履修済み。それと周囲に大沢さんの「新宿鮫」シリーズや今野敏の「隠蔽工作」が好きな男どもがいるので、さんざん話を聞かされているから、設定自体に新鮮味はない。 おそらく、造形的に美丈夫な攻めと、なんか被虐心煽る受けの緊張感あふれる関係が受けているんだろうな。あと受けの義兄とか、攻めの秘書とかの脇キャラで。 エスとはSPYのSなのね。しかし受けの刑事さん、この若さであんな胡散臭い恰好できるほどの財力があるのが不思議。刑事だって役職つかないと薄給だぞ(公務員だから老後は安心だが)。ましてや20代では。衣服まで経費でおちるとは思えないし、そもそも情報屋への謝礼は領収証なんてとれないしなあ(現金の授受はなくても、いろいろ気を使うのに掛かるだろう)。ま、このへんの甘さが腐女子対象のBLならでは。 最初からエロ目的の攻めが、何を考えているのかわからん。権力側の人間に羞恥プレイを強いるのが好きなんだろうか。ハードボイルドとしても中途半端で、SMプレイをされそうになった受けをあっさり奪還に来るあたりとか、でき過ぎだよ。攻めはもっと素直に「欲しい」といえばいいのになあ。 そうそう、受けと義兄の関係が、高村さんの合田シリーズそっくりなんですけど。こっちは姉が病死で、あっちは精神破綻で自殺だったかな? とりあえず、「姉の夫」は結構根強い庇護関係設定だ。どうせなら、あのエリートコース驀進中の兄ちゃんとできちゃえばいいのに(笑)。 自分の欲望とか、プライベートな時間になにしているとかまったく明かされない受け、同様に、忠臣である秘書を持つ攻めの、一見遊んでいるようで、実は裏家業との縁が切れずにもめそうなところとか、「これからが面白くなる」と匂わせてはいるけど、エチシーンの描写は絵だけがエロくて、文章はわりとサラッとしている気がするし。 ああ、でも文章は簡潔でわかりやすい。ぐいぐいもっていかれる推進力はないが。 あ、なんかいまふっと思ったんだけど、英田さんの作品には、おいしそうに食事するシーンがほとんどないんだよね。これだ! 榎田さんはこのへんの描写に凝るし、木原さんも意外と、食事のシーンは印象に残っている。そまつな貧しい暮らしのなかで、毎日風呂上りにビールを飲むささやかな幸せとか、ささいなシーンが意外と効果を上げている。直接的にはラブにはなんにも作用しなくても、家の描写や家具がどうたら、部屋が無機質とかの描写より、食べる描写をしっかり書くことで、結構人物に陰影つけられると思うんだがなあ。みんな、池波正太郎とか読んでないのかな。それとも自分が食いしん坊だから気になるだけなのか? ああ脱線。とにかく期待が大きすぎて、今回も「はあ、こういう内容でしたか」以上にはならなかったな。きっと続きは読まないだろう。 奈良さんの絵も、自分的にはそれほど燃えない。 あと『デッドロック』のシリーズが1冊手元にあるなあ。あれに最後の望みをかけよう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[BL小説] カテゴリの最新記事
|