音物語 American Tune 3.
ポール・サイモンが「American Tune」を書いたのは1972年(発表は1973年)。彼自身が「あまり政治的な歌詞は書かない、でもこの曲はかなりそれに近いものだった」とインタビューで語っている。アメリカは国内的にも国際的にも苦難の時代を通りすぎていた。ベトナム戦争はまだ終わっていなかった、ランド研究所の研究者がペンタゴン・ペーパーズを新聞社に流した、ニクソン大統領のウォーターゲート事件は深く静かに進行していた、人種差別撤廃の為のバス通学が連邦政府によって強制されることも可能になった。「American Tune」の歌詞には、そういったアメリカの苦悩の歴史と、と同時に民主主義を守ろうとする折れそうで折れない意志が刻まれている。しかし、この曲の歌詞が多くのアメリカ人に今でも受け入れられているのは、それ以上の何かがあるからだ。この詞には、個々のアメリカ人、あるいはどこの国の人でも、が時代を越えて共感することのできる人生の試行錯誤が象徴的に描かれている。人々はそこに自分の夢を、苦悩を、誤解を、疲労を、孤独を読み取って、深くうなだれる。それでも、一休みしたらまた立ち上がって仕事に向かうしかない。そんな時にふと口ずさむ、そんな歌だから愛されてきた。Many's the time I've been mistakenAnd many times confusedYes, and I've often felt forsakenAnd certainly misusedBut I'm all right, I'm all rightI'm just weary to my bonesStill, you don't expect to be bright and bon vivantSo far away from home, so far away from homeしょっちゅう誤解を受け、心はぐちゃぐちゃに乱れた人から見捨てられたし、もちろん利用もされたそれでもなんとかボクは大丈夫だけどさぁ、疲れたよ、骨の髄までそれでもって明るく元気にしてろってのは無理な話さそりゃそうだろ、心の故郷はここにはないんだ、遠く離れてるんだAnd I don't know a soul who's not been batteredI don't have a friend who feels at easeI don't know a dream that's not been shatteredor driven to its kneesBut it's all right, it's all rightFor we've lived so well so longStill, when I think of the road we're traveling onI wonder what's gone wrongI can't help it, I wonder what's gone wrong誰だって打ちのめされたことがある友達はいるけどなんかみんな距離を置いてるしね夢なんてさいずれは打ち砕かれ押しつぶされるものさそれでも大丈夫だよだって僕たちは長い間まあ申し分なく生きてきたんだからとはいうものの、振り返ってみるとどこで道を誤ったんだろうと思うそう思わざるをえないんだよねAnd I dreamed I was dyingI dreamed that my soul rose unexpectedlyAnd looking back down at meSmiled reassuringly自分が死んでゆく夢を見た驚いたことに自分の魂が空中高く昇って行くんだそこから自分を見下ろしてる、安心させるように微笑んでねAnd I dreamed I was flyingAnd high up above my eyes could clearly seeThe Statue of LibertySailing away to sea自分が天空を翔んでいる夢を見たずっと高いところから自由の女神がはっきりと見えるまるで海の上を走り去っていくようなんだ自分が天空を翔んでいる夢を見たWe come on the ship they call the MayflowerWe come on the ship that sailed the moonWe come in the age's most uncertain hourand sing an American tuneBut it's all right, it's all rightYou can't be forever blessedStill, tomorrow's going to be another working dayAnd I'm trying to get some restThat's all, I'm trying to get some rest僕たちはメイフラワー号という船でやって来る月面を走った船に乗ってやって来る歴史上もっとも不確かな時にやって来るそして、アメリカの歌を歌うんだそれでも大丈夫さ、うんうん大丈夫永遠に祝福されるなんてことはないんだしねでもね、明日もまた仕事に行かなくちゃいけないんだだから、今はもう少し休もうと思うそれだけだよ、もう少し休もうとね最後にもう一度、ユーチューブでサイモンとガーファンクルの「American Tune」を聴く。彼らが解散したのは、どこにでもあるエゴのぶつかり合いで仕方がなかった。それでもやはり、ガーファンクルの<天使のような声>は美しい。この演奏は、1981年9月19日、ニューヨーク、セントラル・パークでのコンサートでのコンサートのものらしい。