昨日は大阪も雪景色になりました。
先般の雪の時は入院中であり、病室の窓から眺めたきりでありましたが、今回は自由の身、枚岡梅林や枚岡神社の雪を見に外へ出てみました。午後遅くなってからであったので、かなり融けてしまっていました。
雪が滅多に降らぬ地に住んでいると、雪は「雪景色」というものとなり、「雪見」なんぞという言葉さえも生まれるのである。芭蕉さんも「馬をさへながむる雪の朝哉」(雪の朝というのは何もかもが新鮮で、旅人ばかりかその馬をさえ、普段と印象が違って、じっと眺めてしまう。)と吟じて居られますが、総じて我々は、そのようなのである。
もっとも、地域によっては、足止めを食ったり、大渋滞を引き起こしたり、便欠航で空港で一夜を明かしたり、事故に巻き込まれたりと、色々の難儀を生じさせた今回の雪でもあれば、そう呑気なことを言って居ては不謹慎の謗りも免れぬ処だが、雪国暮らしでないヤカモチとしては雪を目にすると自ずと心そわそわと「さやぎて」ということになってしまうのは、仕方なきことなのではあります。
(2014年2月14日の雪)
(同上・枚岡神社)
(同上・枚岡梅林)
ついでに、芭蕉さんの「雪」の句を列挙して置くこととしましょう。
はつゆきや幸庵にまかりある
(待ちに待った初雪だが、幸いにも私は庵に居合せている。)
初雪や水仙のはのたはむまで
(水仙の葉がたわむほどに初雪が降り積もっている。)
面白し雪にやならん冬の雨
(面白いことに、冬の雨は雪に変りそうだ。)
初雪に兎の皮の髭つくれ
(初雪には兎の皮で付け髭を作って兎の気分になれ。)
初雪やいつ大仏の柱立
(もう初雪が降り出した。大仏殿の柱立てはいつのことになるのやら。)
はつ雪や聖小僧の笈の色
(初雪の中を行く行脚僧の笈の色は長旅を示すように色褪せている。)
雪をまつ上戸の顏やいなびかり
(稲光が走るたびに、雪を待つ上戸たちの顔が照らしだされる。)
初雪やかけかゝりたる橋の上
(初雪が架けかけの橋の上に積もっている。)
たはみては雪まつ竹のけしきかな
(この絵の竹はよくたわんでいて雪を待っている風情である。)
霰まじる帷子雪はこもんかな
(霰まじりの帷子雪は霰小紋のようだ。)
時雨をやもどかしがりて松の雪
(時雨はいくら降っても松の葉を紅葉させることはない。それをじれったく
思って松は雪をかぶってしまった。)
しほれふすや世はさかさまの雪の竹
(雪の重みで竹が節をさかさまに萎れ伏している。子に先立たれたあな
たのように。)
波の花と雪もや水にかえり花
(海に降り込む雪は水にもどって、波の花となって返り咲くのだろうか。)
富士の雪盧生が夢をつかせたり
(雪をかむった富士の姿は露生が夢で築かせた白銀の山のようなものだ。)
今朝の雪根深を薗の枝折哉
(今朝はあたり一面の雪、頭を出している葱が畑の目印になっている。)
雪の朝独リ干鮭を噛得タリ
(雪の朝に独り私は干し鮭を噛み得ている。)
黒森をなにといふともけさの雪
(黒森の由来を何と言おうが今朝の雪ですっかり白森だ。)
馬をさへながむる雪の朝哉
(上記参照)
市人よ此笠うらふ雪の傘
(市に集まっている人々よ、この笠をあなたがたに売ろう。この雪の積も
った笠を。)
雪と雪今宵師走の名月歟
(雪と雪が照り合って、今宵は師走なのに中秋の名月のような明るさだ。)
君火をたけよきもの見せむ雪まるげ
(君は火を焚け。私はよいものを作ってみせよう。雪の大玉を。)
京まではまだ半空や雪の雲
(京まではまだ道の半ば。中空には雪雲が居座っている。)
ゆきや砂むまより落よ酒の酔
(下は雪の砂地だ。馬より落ちてみなさい。酒の酔いも醒めるから。)
磨なをす鏡も清し雪の花
(研ぎ直された鏡も清らかで、折しもそこへ雪が花のように降りかかる。)
箱根こす人も有らし今朝の雪
(今朝は雪。この雪の中を箱根を越えて行く人もいるらしい。)
いざ行かむ雪見にころぶ所まで
(さあ、雪見に行こう。転ぶ所まで、どこまでも。)
酒のめばいとど寐られね夜の雪
(酒を飲むといよいよ眠れなくなる雪の夜であることだ。)
二人見し雪は今年もふりけるか
(去年二人で見た雪は今年も降っただろうか。)
少将のあまの咄や志賀の雪
(をのがねの少将と尼の話を聞いている中、ここ志賀の里には雪が降っ
ていることだ。)
ひごろにくき烏も雪の朝哉
(日頃は憎らしく思っている烏も、雪の朝は風情がある。)
貴さや雪降ぬ日も蓑と笠
(尊いことだ。雪降らぬ日にも蓑と笠を身につけている小町の画像は。)
比良みかみ雪指シわたせ鷺の橋
(比良山と三上山の間に、鷺よ、翼並べて、雪のように白い橋、鷺の橋を、
さし渡せ。)
雪ちるや穂屋の薄の刈残し
(雪が降り散る枯れすすきは穂屋を作った際に刈り残したものだろうか。)
庭はきて雪をわするゝはゝきかな
(庭の雪を掃きながら、雪のことは忘れて、ただ無心に箒を動かしているこ
とだ。)