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2020.01.30
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ロウソクの火に不気味に光る牙を首筋に突き入れようと妖猫は巨大な前足でくみ伏せた角太郎の顎を横に押し付けた。

 

そしてもう一度、身も凍るような咆哮を上げると妖気を放つ息を吐きながら首筋へと牙を運ぶ。

そしてついに牙を角太郎の首に突き立てる瞬間。

 

ピシッ!

 

妖猫の鼻面を何かが襲った。

 

妖猫は驚き顔を持ち上げ、何かが飛んで来た方向に目をやると、忘れもしない憎き顔が庵の入り口にあった。

我が左目に深い傷を負わせた犬飼現八だった。

妖猫は角太郎の顔に毛深い足を押し当てたまま現八に振り向いて再び吠えて言った。

 

「おのれお前はあの時の!今宵はこの角太郎とともに俺の餌食となるがいい。」

 

ガタッ!

 

その時、庭に面した障子が開きもう一人の剣士が現れた。

現八とともに角太郎を探す旅に出た犬川荘助だ。

 

妖猫がそちらを振り向いた隙を狙って、角太郎は妖猫の前足を払いのけ刀を拾い部屋の奥へで身構えた。

妖猫は三方から囲まれる形となり、じわじわと後ずさり三人すべてを見渡せる場所まで退いた。

 

妖猫は口を開き、喉の奥から響く唸り声を上げ始めた。

その声には恐ろしい力があり、聞く者の頭の中に激しい痛みを与えた。

 

「ウッ!」

角太郎は鼓膜を突き破りそうな痛みに襲われ耳を抑えた。

現八も荘助も同じだった。

 

グアーオー、グアーオー。

 

妖猫はさらに唸り声を三人の頭の中にこだまさせ、徐々に身構えた。

一気に三人に襲い掛かる間合いを計り始めた。

 

グアーオー、グアーオー。

 

その時小さな影が一瞬の間に部屋を横切り、妖猫の顔を飛びついたかと思うと鋭い爪で残った右目を引き裂いた。

妖猫は激しく首を振り、おのれの顔に張り付いた者を振り落とした。

 

雷だった。

 

自分の夫である偽一角が身の毛もよだつ妖猫であると知った船虫が逃げ出した後に残された雷は、彼女に盛られた眠り薬による眠りの中で妖猫の鳴き声に目を覚まし駆けつけたのだ。

 

雷も猫族。猫の咆哮には耐える力を持っていた。

 

グアーオー、グアーオー。

 

「よくも俺の目を潰したな?だがな、俺の耳はお前たちの息の音まで聞こえるぞ。俺の鼻はお前たちの匂いをかぎ分けられる。手に取るようにお前たちを感ずることが出来るのだ。

お前達丸ごと食ってやる。」

 

グアーオー、グアーオー。






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最終更新日  2020.01.30 00:00:19
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