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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
妖猫は低く身をかがめ、一声低く唸ると目も止まらぬ速さで飛び上がった。 床を蹴り、壁を蹴り、身を翻し天井を蹴り、剣士たちを見定めて行った。 齢百年を超える妖猫は、並外れた素早さと、強烈な力で現八に荘助に角太郎に次々と襲い掛かった。 剣士たちは刀でどうにかかわすだけで精いっぱいな状態に陥った。
何かしなければ。
現八の頭の中はそのことで一杯になった。
このままでは三人とも体力を使い果たし、次々と妖猫の餌食になって行くことは明らか。
角太郎は焦る気持ちを抑えながら考えを巡らした。
妖猫の動きを捉えようと荘助の目は必死に後を追った。 彼はやがて眼をつむり、妖猫の気を全身で受け止めようとした。 彼は妖猫の気が部屋の中を激しく動き回る中に一つの気配を感じることが出来た。 気は彼の体を強く押したり、離れたり、次第に手に取るように動きを捉えることが出来るように感ずることが出来た。
そして次の瞬間、その気は嵐に翻弄される荒波の様に荘助に向かって押し寄せるのを感じた。 荘助は一旦刀を鞘に納めるや低く構え、最後の瞬間に渾身の力で居合もろとも刀を一閃させた。
ウガアアア。
妖猫の叫びとともに不意に動きが止まった。 そして妖猫の足元に荒縄ほどもある太いひげがバタバタと落ち、不気味に蠢いた。 猫にとってひげは大事な感覚を支える源であり、それは妖猫と言えど同じであった。 妖猫は動きを止め、床の真ん中で踏ん張り、しきりに首を振り回していた。 体の平衡を保っていたひげを失い、足もふらついているように見えた。
ウ、ウ、ウギャー。 妖猫は咆哮を上げ震える体を必死に抑えて、一点に視線を合わせようとしているようだった。 そしてその視線の先には憎き現八の姿があった。 庚申山で自分の左目を矢で射抜いた憎き現八の姿を。 妖猫は渾身の力を込めて、現八に襲い掛かった。
ダダッ
激しく床を蹴る音とともに妖猫は現八に襲い掛かった。 牙や爪が四方八方から現八に襲い掛かった。 現八も十手で激しく応戦した。 十手取の名手現八は、繰り出される妖猫の前足を激しく打ち付け、鈎爪を受け、急所を狙って打ち込んでゆく。 やがて妖猫の前足は赤く染まり、傷は裂け鮮血がほとばしり始める。 そして次第に動きも緩慢になって行った。
その時。
「イエーイ。」 腹の底から気合を込めて飛び上がった角太郎の太刀が、妖猫の頭上へと振り上げられ一気に振り下ろされた。 次の瞬間妖猫の頭は体を離れ床を転がり土間に転がった。 土間の上でその頭は口をバクバクとさせ、残された体は震え、前足から伸びた爪は床をかきむしり、やがて倒れると四肢をバタつかせ次第に痙攣と変わり、最後にギュッと伸ばした後、突如力が抜けわずかな震えとともに絶えた。
気を失っていた雷が、おのれが突き破った襖の穴から顔を出し聞いた。 「お、お、終わったかい?」お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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