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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
旅芸人たちとしばらく生活を共にすることになった小文吾は、姓に犬の字を持つ者の噂や体のどこかに痣のある者の噂を聞くと訪ねる毎日を送っていた。 がしかし、どれも探している八犬士ではなかった。 二週間もすると旦開野の腕の骨もようやく着いて来たようで腫れも引いてきていた。 岩にはじかれ打った腰はもうすっかり良くなり身動きに支障はなかったから、彼女は一座や小文吾の世話をしながら一日を過ごすようになっていた。
「小文吾様。今日もお仲間は見つからなかったのでございますか?」 小文吾の羽織を繕いながら尋ねた。怪我をした左腕はまだ治ってはおらず、添え木で固定したままなのだが、手先が器用と見えて意にも介さず見事な手さばきで見る見る繕いは終わった。 「この度は犬上という名でふくらはぎに痣があるとの噂で行ったのだけれど、痣は牡丹でもなければ痣と呼べるものでもなく、単なる擦り傷程度のものであった。」 そのためにわざわざ十里の道のりを終えて疲れた足を桶の水で洗いながら言った。 「ご苦労様でした。」 旦開野は見つめられると吸い込まれそうになるほど美しい眼差しで小文吾を見つめ、すっと伸びた細長く色白の手で彼の背中の汗を拭い清めて行った。 彼女が小文吾の持っていた手拭いを、怪我のない右腕で受け取ろうとしたとき着物の袖がめくれてちらっと何やら痣のようなものが小文吾の目に留まった。 旦開野もそれに気づき慌てて手を引いたが、小文吾は振り向き尋ねた。 「そなたにも痣があるのか?」 彼女は恥ずかし気に右袖を押さえていたが、やがてこう言った。 「ええ、私の右腕には痣がございます。痣だけで八犬士になれるのであれば、おなごの私でも小文吾様と伴に里見のお殿様のお力になれるのでしょうけれど。」 そう言って彼女が自ら右袖をまくり上げた二の腕には確かに痣があった。
しかも、見事な牡丹の模様の痣であった。
小文吾は思わず彼女の腕をとるとその牡丹の痣に見入った。 「まことに見事な牡丹の花じゃ。そなたが男であれば、犬の字を持つ姓であれば、伏姫様から飛び立った珠を持っていれば、間違いなく八犬士なのであろうが。」 小文吾は苦笑いをした。
一座の仲間ともすっかり打ち解けて、最近では座長の尺兵衛が小文吾に街道随一の力持ちの役で一座に加わらないかと言い出す始末だった。 小文吾には里見家の八犬士として仕官するという大事な使命があり、そのようなことは受け入れられるはずもないが、箱根での八犬士探しも行き詰っていたので一座の用心棒を兼ねて諏訪へと向かい、そこで新たな八犬士探しを行うことにした。
そしてそこで彼は、驚愕の事実を知ることになる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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(2020.02.23 19:01:46)
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女性でなくて、男性だったりして。 (2020.02.23 22:10:21)
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