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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
足には覚えのある荘助はいち早く焼き討ちにあっている村に駆け付けると、素早く刀を構え松明を掲げて家に火を放っている盗賊たちに切りかかった。 盗賊たちは突然現れた一人の剣士を始末するするために、家の影から次々に飛び出して来て、あっという間に荘助を取り囲んだ。 盗賊たちはじりじりと間を詰め、三十人くらいが輪となり一人の荘助を取り囲み、誰が最初に切りかかるか目配せを始めた。 誰かが切りかかり、その者がやられている隙に次の者が切りかかり仕留めるつもりなのだ。 だが、最初の切られ役になるのは誰も望まなかった。 だが一人の男が目の前にいた小柄でひ弱そうな男の尻を蹴飛ばし、男はよろよろと荘助の前によろけ出て、覚悟を決めたのか、幸運な一太刀が相手を捉えることに望みをかけて、イヤーッという甲高く奇妙で間の抜けた掛け声もろとも荘助に切りかかった。 次の瞬間、その男の頭は彼の体を離れ向かいにいる仲間の下へと飛び去って行った。 切られ役の犠牲を見届けるや否や、次々に二の刃を目論んで二、三人が一度に切りかかったが、これは荘助に簡単にはじき返され、ある者はその場にばたりと倒れた。 一瞬盗賊たちは後ずさったが、本来荒くれの血が湧き、それに威を得て今度は一斉に飛びかかろうと輪の幅を狭めたそのとき。
ビシッ、バシッ、ボクッ
顔を押さえてその場にうずくまる者が現れた。 盗賊たちは互いに見交わし、辺りを見回し、一人の男が拳ほどの石を胸に抱えて盛んに投げつけているのを目にした。 その石は見事に狙いを捉え、盗賊たちは次々とひざまずいて言った。
現八である。
そこにまた別の男が気合もろとも飛び込んで、盗賊たちの輪の一端が断ち切られ更に三人ばかりがその場に倒れた。 大角が一気に切り込んだのだ。 荘助はすかさず大角とともに盗賊たちと剣を交わし始めたが、そこに現八も加勢に加わり、両手で操る素早い十手さばきで急所を突かれ動きを封じられた盗賊は、残りの二人に次々と討ち取られて行った。
ようやくやって来た氷垣の軍勢は既に決した現場を見て目を見張った。 「お、お見事!」 残三はそう言うしかやることは残っていなかった。
こうして犬川荘助、犬飼現八、犬村大角の三人は穂北荘を拠点に活動をすることになった。
シャム猫の夢曽根雷はそのころ相模箱根方面へと甲斐の国に足を踏み入れていた。 現八たちから、既に彼ら三人と丶大が伴う犬江親兵衛の四人が揃い、あとは信乃、小文吾が探し求める残りの犬士と道節が揃えば八犬士が一堂に介することを伝えるように頼まれたからだ。 彼が千曲川の源流を持つ甲武信岳(こぶしだけ)を下った谷間に差し掛かった時、川縁に一人の男が倒れているのを見つけた。 まだ遠目ではあるが、明らかかにその男は巨体であることが見て取れた。 雷は胸騒ぎを感じて男に駆け寄って、顔を見るなりぎょっとした。 男の目はただれ、何も見えない様だった。 しかし、歓喜の気持ちも溢れた。 それは心優しく懐かしい小文吾だったからだ。 「小文吾さん、大丈夫かい?おいらだ、雷だ。」 雷は必死に叫んだ。 小文吾は大きな手で雷の手を握り、安堵の表情を浮かべた。 彼は事の次第を雷に話して聞かせた。
小文吾が甲武信岳の麓に差し掛かったとき一人の女が足をくじいたとうずくまっていた。 見捨てることもできず女を負ぶって次の町まで山越えを始めたが、途中の休憩の場で女が差し出した水を飲んだところ、それには毒が仕込まれており小文吾は焼けるような目の痛みを感じ、視力を失ってしまったのだ。 そこへ山賊が現れ目の見えないまま小文吾は戦ったが、足を踏み外した拍子に崖を転がり千曲川に落ちてしまった。 彼はそれでも川を泳ぎ切り、どうにか岸にたどり着いた。 山賊たちは金品をはぎ取ろうと追ってきたが、彼は岩の影に隠れ目を逃れることが出来た。 山賊たちが去って行ったあと、彼は川岸をさまよい気を失っていたところを雷に救われたのだと。 その女の名は船虫という名だったそうだ。 「えっ?船虫だって?」 今度は雷が、化け猫が大角の父親に化けた偽一角の話をし、それがもとで現八、荘助は大角に巡り合えたことを伝えた。 その偽一角の妻が船虫で彼は眠り薬を飲まされたそのすきに、三犬士との戦いが始まり、化け猫の人間の動きを封じる咆哮から三人を救ったことを話した。
「船虫とはそういう悪女だったのか?」 小文吾は危ういところを助かったことに感謝した。 それから小文吾は箱根で救った女田楽師の旦開野(あさけの)が実は八犬士のひとり犬坂毛野であり、甲斐に向かった信乃と合流すべく甲斐の町をめざした途中での災難であったことを話した。
雷は小文吾の肩に乗り、彼の目として信乃のいる甲斐の町へと向かうことにした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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