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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
夕暮れの峠に長く引き延ばされた黒い二つの影。 影の持ち主は小さい体ながら足元から続く影は道のほとんどを占めていた。 赤い夕陽に見送られひたすら目指す東の空は、もうとっぷりと暮れている。
「お姉ちゃん。急がないともうすぐ暗くなるよ。」 「今の時期、日が暮れるのは遅いけれど、女二人で暗い夜道は物騒だものね?」 妹の声に姉の声に恐れはないが張り詰めた様子が窺えた。 だが二人の目の先にはなだらかな下り坂が続き、その下り坂の先に小さく品川の宿の明かりが希望の灯の様にたたずんでいた。 あと一里ほどだろうか? 二人は猫族で、姉は三毛猫、妹は白猫だが少し黒い毛が混ざっていた。 二人がしばらく行くと、初夏で日暮れは長いと言っても、さすがに辺りはもう真っ暗になってしまった。 だがあともう一息。 行く手には何のかがり火かわからないが人の気配も見える。 二人はそれに勇気づけられて足を速める。 しかし、そのかがり火の正体がわかってくると二人の足は次第に鈍くなってきた。 そこでは役人のような、おそらく侍と思われる姿が手下に何か指示をしながら、先に着いた旅人たちを調べているようだ。 何も悪いことしたわけではないが、物々しい様子には誰でも不安になるものだ。 旅人たちの最後尾に着いた二人は前に立っている旅の僧に、この取り調べは何か聞いてみることにした。 振り返った旅の僧の体はいかついながら、目は澄み優しく、柔和な唇に二人の緊張も解けた。 「お坊様、このお取り調べは何なのでしょう?」 僧は口元に笑みを浮かべながら言った。 「拙僧も前の御仁に伺ったのだが、どうやら最近不穏な輩がこの辺りに徘徊しており、その者たちが町に入り込むのを防いでいるのだとか。心配はござらぬ。」
長い列を進みようやく自分たちの番も近づいてきた。 名を名乗りどこから何のためにどこへ行くのかをそこで告げているようだった。 二人の猫姉妹の前にいる僧が自分の名と出自、目的を告げようと役人の前に進みかけたとき後ろから呼びかける声が聞こえた。 「丶大(ちゅだい)法師。丶大法師様ではありませぬか?」 振り返ると小さな犬族の役人が、ニコニコと人懐こい顔で近づいてきた。 「拙者でござる。志茂玲央でござる。」 「おお、志茂殿お久しぶりでござる。」 丶大と呼ばれたその僧も嬉しそうに答えた。 そのとき横で思わず叫んだのは妹の白猫だった。 「えっ?丶大?丶大様?そ、そして、志茂様。お坊様のお名前は丶大様とおっしゃいますか?信乃さんとか荘助、いえ額蔵さんをご存じの?それに志茂様でございますよね?私です。山賊の山烏一家に襲われているところをお救けいただいた喜利です。」 この言葉に丶大は驚いて尋ねた。 「あなた方は信乃たちにお会いになられたのですか?」 「はい、私の名は父五里喜利、こちらは姉の蘭と申します。」 志茂も目を丸くして言った。 「思い出したぞ。山賊たちから捕らえられた者たちを、そして犬塚信乃殿をお守りくだされたあの喜利さんですな?」
そして二人は信乃、額蔵改め荘助、現八、小文吾、道節との出会いの話をした。
「この方々は詮議には及ばぬ。私がお身受けする。」 玲央は取り調べの役人に告げると、三人を伴い番所へと向かった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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