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2020.04.05
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八犬士を求めて関八州を旅する金碗大輔こと僧丶大(ちゅだい)と、助け助けられて五犬士と縁を結ぶ蘭と喜利の姉妹と、同じく四犬士と深く関りを持つことになった関東管領下で領内の治安の任を負う犬族の役人である志茂玲央は奇しくも品川宿で再び出会うことになった。

志茂玲央の小さな後姿に従い、三人は番所に導かれた。

奥の部屋から戻って来た玲央は、番所の隅に据えられた食事台で待つ三人の傍に腰掛けた。

やがて奥の部屋から食事が運ばれて来た。

「お三方、ここは番所ゆえ十分な馳走はご用意できぬが、それでも腹の足しにはなると存じますゆえお召し上がり下され。」

なるほど、握り飯に漬物、みそ汁にあとは煮物という料理ではあったが、ここは番所であり取り調べの任に当たる役人や捕り方たちを賄うだけの用意しかないのは致し方ないこと。

だが三人は玲央のせめてものもてなしの気持ちが何よりだった。

 

「五犬士まで揃い、犬飼現八と犬川荘助が犬村角太郎を求めて上野の国へ、犬塚信乃と犬田小文吾が残りの犬士を求めて相模箱根へ旅立ったとなれば、犬江親兵衛と合わせれば遂に八犬士が揃うことになるのだな?」

丶大は伏姫の下から四方に飛び散った八個の珠の行方と、それによって結ばれる八犬士を求める旅もようやく実を結ぶことを思うと感慨深いものがあった。

そこで彼は、まだ四歳と幼い犬江親兵衛とその祖母妙真を伴って旅する途中、盗賊に襲われ争う中で、親兵衛がまるで神隠しにでもあったように、孫を庇う妙真の腕の中から消えてしまったことを話し、最後にこう付け加えた。

「その後、伏姫様が拙僧の枕元に立たれこう仰せられた。犬江親兵衛は伏姫様の庇護のもとで育てられ、しかるべき時にみなの前に姿を現すであろうと。それを聞き、祖母の妙真殿は一先ず里見様の下にお送りし、拙僧は再び八犬士探索の旅に出たのでござる。」

玲央と二姉妹は不思議な話に耳を傾けていた。

そして玲央はこのようなことを言った。

「かつて拙者の下で働いておりました犬飼現八は右の頬に、危うく助け出された犬川荘助殿は背中に、犬塚信乃殿は左腕に牡丹の花のような痣を持っておられる。しかし、犬川殿を助ける策を考えた夢曽根雷という猫族の若者は顔に、代官屋敷に侵入し騒動を起こし、犬川殿を助け出す時を稼いでくれた義賊の螺良猫団を率いる佐飛も、そしてここにおられる蘭さん、喜利さんにも同様、南蛮人がハートと呼ぶ模様がござる。牡丹の痣を持つ八犬士とハートの模様を持つ猫族の者たちは深い縁で結ばれているように思えてならないのでござる。」

これを聞き猫の姉妹はお互いのハートの模様を確かめ合いながら因果に思いを馳せた。

「そうすると私たち二人にもまだ八犬士の方々のお役に立てる何かが残っているという事でございましょうか?ここでゆかりのあるお二方にお会いしたという事は。」

蘭はそう言って丶大の顔を見つめた。

丶大は言った。

「それは分からぬが、運命のどこかで深く結びついているのは確かなのかも知れぬ。して、お二方は女二人の身で何故はるかこの品川の地までおいでになられたのだ?」

「それは・・・・」

喜利が打ち明けた。

「私たちの父が最近、心の臓を病み、この病にも効くと言われる蝦蟇の油を求めて成田山へ向かう途中でございます。」

それを聞き丶大は言った。

「女ふたりでそのような所まで行くには、どんな災難が降りかかるやも知れん。拙僧がお供つかまつろう。」

「でもそのようなことをすれば、丶大様の大事なお役目が・・・」

蘭の言葉を制して丶大は微笑んで言った。

「心配はござらぬ、お話を聞けば八犬士は刻一刻と姿を現し、一つにまとまりつつあるようでござる。それをお助けいただいたお二人への恩、そして何よりここでこうして会ったのも何かの縁、きっとそうするようにとのお導きであると感じずにはおられないのでござる。」

こうして二人の姉妹と里見家の髄一の武将金碗大輔である丶大は成田山へ旅立つことになった。
玲央が持たせてくれた書状を見せれば、関東管領の力の及ぶ成田山まで難なくたどり着くことが出来るであろう。






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最終更新日  2020.04.05 00:13:24
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