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2020.04.23
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小文吾の大きな肩にちょこんと座る猫族の雷は、元々体の小さな猫族とはいえ更に小さく見えた。

だが彼は今や小文吾の大事な目として信乃がいる甲斐の国、猿石村の村長の四六城家へと向かっていた。

里見家より鷲にさらわれて来たと思われる浜路姫を育てている四六城木工作(よろぎむくさく)に会いに向かった信乃と合流するためだ。

 

だがその二人を見つめる者たちがいた。

例の山賊たちだ。

その親分の妻となった悪女船虫は、小文吾が引っ掛かったように道端で旅人を騙し山賊たちのいるところへ連れて行き襲わせていた。

船虫はようやく見つけた小文吾だが、今彼の目となっている猫の若者をまず殺さないと、小文吾にはとても歯が立たないと、弓の使い手に狙わせていた。

あの猫さえいなければ、今や目の見えない小文吾は裸同然だった。

 

「いいかい、しっかり狙うんだよ。しくじるんじゃないよ。」

船虫の冷酷に見つめる眼差しは、その矢よりもはるかに殺気を帯びていた。

弓の射手は、矢を弓につがえると大きく引き絞った。

この男、弓の腕前では誰にも負けないと豪語するだけに、今まで外したことは一度もなかった。

ある時など、百間先の兎を射止めたこともあるほどだ。

雷を肩に乗せた小文吾が木立の中を見え隠れしながら進むのを、山賊の矢はずっと追い続けた。

やがて小文吾は木立を抜け、少し開けたところに歩みだしていた。

距離は五十間ほどだからぞうさもない距離だった。

射手はしっかり見定め、次の瞬間矢は彼の弓に弾かれ谷間の木々の間を抜けて、雷の小さな体をめがけて空気を切り裂いて行った。

 

シュルシュルシュルシュル

 

矢は小気味よい音を残してまっしぐらに雷の体に向かって行った。

 

その時、小文吾の後ろで何か呼ぶ声が聞こえた。

「おい、雷!」

小文吾は足を止め、雷が振り向いた。

その瞬間、雷の後ろ頭を何かがシュルシュルと飛び去る音が聞こえた。

雷は何事かと前を向いたが、同時に小文吾はその声のした方に体を向けたため、雷だけが今進んでいた方に首を曲げる形になった。

雷は言った。

「今の音は何だ?何か飛んで行ったのか?」

「雷どうしたんだ?さっきの音の事か?」

小文吾が再び進んでいた方向に体を向けるのと、声を掛けてきた者に振り返ろうとした雷の首は再び入れ替わり、雷だけがその声の主に振り向いた形になった。

「小文吾さん。なんか俺たちややこしいことになってねえかい?」

「そうだな雷、そのまま首をそっちに向けているんだぞ。」

そう言って小文吾はゆっくり後ろに振り向いた。

ようやく体と首の向きが一致して、雷ははっきりとその声の主を見ることが出来た。

そこには藤色をした美しいサバトラの猫族の若者が立っていた。

「君は誰?」

その猫族の若者はニコリと笑って名乗った。

「風(ふう)っていうんだ。」

「ふう?」

雷は名前を繰り返した。

風という若者は言った。

「君、雷だろ?今君の前を飛んでったのは山賊の放った矢だよ。気を付けるんだ。」

その時二度目の矢の音が迫って来た。

だが今度は耳を澄ませた小文吾が、矢が到達する一瞬に太い腕を一振りして、見事矢を払い除けてしまった。

雷は山腹の小道に山賊たちが数人立っているのを見つけたが、山賊はそのまま走り去ってしまった。

「ああ、危なかった。でも小文吾さん、山賊たち行っちゃたよ。」

雷はつぶやきながら再び若者に振り返った。

「ふう、どうして君はおいらの名を・・・・」

そう言いかけて止めた。
そこにはもう誰もいなかったからだ。






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最終更新日  2020.04.23 00:00:20
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