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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
「おい、お前達!ここで何をしておる。」 門番は三人の猫の若者を睨みつけながら近づいてきた。 「ここは竜山様のお屋敷だぞ。目障りだどこかへ立ち去れ。お前たちのような下賤のものがこの辺りをたむろするだけで汚らわしい。」 雷、千代、連の三人は威張り散らす傲慢な門番の威嚇を受けて内心反発を感じたが、このような者とやり合っても仕方ないと背を向けて立ち去ろうとしたが、また門番が怒鳴った。 「おい待て、そこの一番若そうな奴。俺は猫族のことはよく見わけがつかないが、どこかで見たような顔だが。」 確かに一番若い連が振り向いて男に言った。 「俺の事ですか?」 連が訊くと男は憮然とした顔でうなずいた。 「誰かに似ているだけでしょう。俺たちは今朝この村に初めて着いたばかりですよ。」 これはほとんど間違いなかった。連以外の俺たちは今朝この村に初めてやって来たのだ。 「何か怪しい。取り調べるから中に入れ。」 門番は三人を一まとめにひっつかみこう言った。 「いいか、変な真似したらその場で叩き切るぞ!」 門番は大門の傍の通用門に三人を押し込もうとした。 門番の言うように三人は怪しいことに間違いなかった。 なぜなら、この屋敷の様子を窺っていたのは確かだったからだ。
「あら、千代坊じゃないの?おばさん、あなた達が遅いから迎えに来たんだけどどうかしたの?」 振り返ると、目の覚めるような美しい女性が艶めかしい姿で立っていた。 先程の門番もぽかんと呆気にとられ、その女性に魅入られているようだった。 「お侍様。千代たちが何かいたしましたでしょうか?先日、私の実家から甥の三人がこちらへ参るからと連絡があり、遅いので心配になり探しに参ったのでございます。」 そう言って女性は門番の鼻先に顔を近づけ、抜けるような白い歯を赤く色付いた唇から輝かせ、吸い込まれそうな瞳でまっすぐ彼の目を射抜いた。 「お、お、お嬢さん、そ、そうでございましたか?そ、それは・・・・」 男はそう言ってさっきの横柄な態度は影を潜め、一歩後ろに退いた。 だが、そこで彼は思い直したように顔を上げた。 何かよからぬ光を目の中に灯して。 「お嬢さん。この三人はここで竜山様のお屋敷を窺っていたのですぞ。中で取り調べいたします故、お口出しなきように。そなたも中に来て拙者に申し開きをするというのならお止めは致しませぬが。」 門番は下心を言葉に込めてそう言った。
そのとき。
「おい、あさけの。どうした?遅いではないか?おお、雷。お前達が遅いからあさけのを迎えにやらせたのだが。」 門番は『あさけの』と呼ばれる美女の後ろに現れた男に目をやった。 その男が近付くにつれ、彼の視線はどんどんと上に向けられ、とうとう見上げる高さになり、ぽかんと口を開けた。 「俺の女房と甥っ子どもに何か不始末でもあったのかい?お侍様。」 男は最後の『お侍様』の語気を強め、ゆっくりと、大きく脅すように言った。 門番は先ほどの勢いはとうに失せ、今や腰を抜かさんばかりの状態で、声は震え、目はきょろきょろと、足はぶるぶると勝手口に向かい、 「いえ、滅相もございません。」 と言い残すとさっと姿を消した。 「ではお侍様。この子たちはこれで。」 女は中に聞こえるようにわざと甲高くそう言うと、三人の肩を抱きかかえながら歩きだし、その後を大男がのしのしと続いた。 角を曲がり、屋敷が見えなくなると千代が二人に振り向いて言った。 「道節さん!毛野さん!」 道節は先ほどの大人でも尻込みをしそうな形相を一気に崩し、いつものおどけた表情で言った。 「なぜ雷も一緒に?どうしたんだお前達。」
四人の間でひとり連だけが交互に見比べ、 「道節さん?毛野さん?」 女性を見つめて、 「毛野さん?さあけのさん?」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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