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カテゴリ:ニャン騒シャーとミー八犬伝
籠山逸東太(こみやま いっとうた)はかつて武蔵石浜城を根拠とする武蔵千葉家の同じ重臣である馬加大記 (まくわり だいき)が千葉家を乗っ取ろうとする策略に乗せられて、同僚の粟飯原胤度(あいはら たねのり)を殺害する。当の馬加はこれに乗じて粟飯原の一族郎党、幼子に至るまで皆殺しにしてしまう。 だが粟飯原の妾とその男の赤子だけが難を逃れた。 その妾は相模箱根の犬坂村に逃れ追っ手の目を逃れるために、男の子を女装させて育て名を旦開野(あさけの)と名乗らせた。 これが犬坂毛野の生い立ちであった。 毛野は小文吾や信乃に救われ自分が八犬士の一人であることを知りながら、父の仇籠山逸東太を討ち果たすことを志し、何も知らぬ小文吾の下から姿を消した。 その途中道節と出会い、偶然にも信乃と浜路姫を助ける螺良猫団の佐飛の計画に一枚かむことになる。 その時に知り合ったのが、後ろ頭にハートの模様を持つ佐飛の甥の千代だった。 それから毛野は籠山逸東太が竜山免太夫(たつやま めんだゆう)と名を変え扇谷定正の家臣として仕えていることを知り、扇谷定正を父の仇と狙う道節とともに夫婦と騙って旅発ったのだった。
本懐を遂げた後は八犬士に加わることを約束して。
毛野と道節は竜山の屋敷を探っていたが、なかなか中の様子を探ることが出来ず困り果てていた時に偶然、雷と千代そしてもう一人黒猫の少年が竜山の門番に引き立てられそうになっているところを見つけ救い出したのだった。 二人にとってまことに都合の良いことに、その少年の連はかつて竜山に奉公しており、屋敷の中の事を詳しく知ることが出来たことだった。
「なるほどそういう事だったのか?」 道節は千代のこれまでの話で合点が行ったように大きく頷き、毛野の腕の中ですやすや眠る連の寝顔を見つめてにっこり笑った。 奉公をしていたとはいえまだ六歳、母親も恋しい年ごろ無理もなかった。 とはいえ毛野は女装はしているものの、八犬士の一人であるれっきとした男であり連も知ってはいるのだが、ここは連の気持ちを察してしばらく甘えさせてやることにしたのだ。 「だけどこの連がいてくれるお陰で、私の望みはことのほか早くかないそうな気がする。」 そう言って毛野は男でありながらまるで母親のような優しい目で、ぐっすり眠る連の寝顔を見つめ額ににじむ寝汗をそっと拭ってやった。
翌朝、連は目覚めてなんだかよい香りがするのに気付いた。 彼は目をこすりながら台所に向かうと毛野が朝の食事の用意をしていた。 「け、毛野さんおはよう。」 連は少し照れるように言った。 「あら連、起きたの?『あさけの』でいいのよ。」 連はきっぱり言った。 「でもやっぱり毛野さんと呼ぶよ俺。いつまでも甘えていられないし。でもあさけのさんが俺の母さんならうれしいけれど。」 毛野は美しい顔をほころばせて、だが少し男っぽい口調で連の頭を撫でながら言った。 「連、えらいよ。」 連の母親は武蔵の国にいるらしいのだが、秋祭りの夜に年の離れた白猫の姉とともにさらわれて、母とは生き別れてしまったらしかった。 その後、白猫で雛という名の姉の下からも引き離され、この武蔵国鈴茂林の竜山の館で奉公させられていたのだが、幸いにも姉の所在は分かっている。
毛野はいつか彼の母親を探し出し、姉と共に送り届けてくれると約束してくれた。
連はもちろん母親に会いたくて堪らなかったが、同じくらいに雛に会いたいと思っていた。 だが実際、そんなに遠くない先に会えることになろうとは、その時思ってもいなかった。お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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