竜山免太夫(たつやま めんだゆう)こと籠山逸東太(こみやま いっとうた)は蝋燭の明かりを頼りに毎晩遅くまで民の事、村の事について思案を巡らせていた。
名君と呼ばれる人物ならば、民のため、村のため、国のために何をなすべきかに頭を悩ませるのだろうが、彼の場合は民からあとどのくらい富を吸い上げることができるか、村からどれだけ利を得ることが出来るかで頭がいっぱいだった。
自分はこの地の領主なのだから、自分が最大の利益を受けて当然だと思うから。
そのために民はいるのだと。
彼は鈴茂林の領民の目録で収入や財産をくまなく調べ、絞れ取れそうなものを見つけるとすぐさま部下を走らせ、根こそぎ巻き上げることに全力を費やしていた。
彼は目録からまた新たに餌食を見つけ、小躍りしてそこに印を入れた。
『明日はここだ!』
そう思ってふとすっかり夜更けになってしまっていることに気づき寝所に向かった。
寝所では熱心な彼の働きを待ちきれず、妾が一人で寝込んでしまっていた。
夜は遅いが今からでも罪滅ぼしはするつもりだ。
寝所に足を踏み入れようとしたそのとき、後ろから声が聞こえた。
「殿、お耳に入れたき義がござります。」
振り向くと一人のキジトラの猫族の男が控えていた。
「お主、見慣れぬ顔だが名を何という?」
猫族の男は首を垂れて答えた。
「私、村々から没収した金品を鑑定する役を仰せつかっております織(おり)という者でございます。」
「で織とやら申したき義とは?」
早く妾と一夜を楽しみたい逸東太は気短に織に尋ねた。
「昨日、東の庄屋から没収された品を見定めし折に気になる文書を見つけた次第で、殿にお知らせにまかり越してござりまする。」
織からその気になる文書の説明を受けた逸東太は、案内されて一つの部屋の前に立った。
そこはその庄屋から没収した家宝が置かれている部屋だった。
二人が部屋に入ると、織は奥から黒い漆を施した小箱を手にして戻り、逸東太に差し出した。
逸東太が小箱の蓋を開けるとそこには一冊の文書が収まっていた。
文書を取り出しパラパラとめくってみると、次第に彼の目は輝き始めた。
それにはこう記されていた。
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汝 欲するとき
汝 窮するとき
汝 求めんとき
齢百年の時を限りに ひとたび望みを叶えん
新月の夜 この約書を祠の前に供えるなり
しかる後 子の刻をひれ伏して待て
決して仰ぎ見ること能わず
霊鬼山 行者
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霊鬼山とは、この鈴茂林の守護山でそこには仙人が住むという。
恐らく庄屋が仙人から受け取り、密かに家宝として隠し持っていたに約書に違いない。
逸東太はそう睨んで、約書に書かれたその日の子の刻に行ってみることにした。
彼の望みはただ一つ。
一国一城の主となること!