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カテゴリ:ファンタスティック・パロダイス
娘は折れた柄をまだにぎりしめて、巨大化した一寸法師を見上げて顎を震わせ震えていた。
何せ3センチ程度の指先で弾けば3メートルは飛ばせる一寸法師が今やその3メートルにもなろうかというほど巨大化して、彼女を上から目線で見下しているのである。これでは一寸ではなく、そう百寸法師ではないか?
百寸法師となった一寸法師は不敵な笑いを口元に滲ませてこう言った。
「おい、もうこれであんたの好きな様に俺様を伸び縮みさせられねえぜ。よくも今までこき使ってくれたよな。礼を言うぜ。」
一寸いや百寸法師の言う通り、あるときはたんすの後ろに落ちた櫛を取りに小さくされたり、京の町を歩くのに見栄えが良いからと恋人サイズに伸ばされて重たい荷物運びをさせられたり、次は巨大な大黒ねずみとの決闘が見たいからと30センチの十寸法師にされたり、彼女のわがまま放題に、ゴム人形の様に伸び縮みさせられて、こき使われて来たのだった。
彼が百寸法師になれた事の発端はこうである。わがまま娘がいつもの様に、大好きなみやこ饅頭を食べたいばっかりに、年端の行かないでっちサイズの五十寸法師にして買いに行かせようとしたのだが、いつも体よくこき使われる事に不満を募らせていた一寸法師が、娘がちょっと目を話した隙に、打出の小槌の柄に切れ目を入れておき、彼女が彼を大きくするために小槌を振り始めるとすかさず、
「いつも甘い物ばかり食べているから三段腹で、三重顎で、三十貫(110キロ)の肥満娘。」と煽ったため、わがままなだけに切れやすい娘は、力まかせに小槌を振って、気がついた時には、一寸法師は百寸法師になり、小槌の柄を叩き折ってしまったのだった。
太い腕をわななかせ、俯いて所在なげに柄を見つめている娘に向かって百寸法師は、「今までの様に、爺さん、婆さんを人質にとは行かないぜ。二人は安全な所に隠してあるからな。」と言って笑った。しかし、顔を上げた娘の不敵な笑みにぎょっとした。
娘は凄みのある笑い顔で小槌の柄をポンと放り投げると、「全く図体は大きくなってもおつむは一寸のままなんだから。後ろをご覧。」
百寸法師が振り返ると、やはりいい暮らしででっぷりしたお爺さんとお婆さんが、金箔と銀箔の座布団にふんぞり反って、哀れな百寸法師を見やっていた。二人とも娘に懐柔されたのだ。
落胆した百寸法師はあっさり縛り上げられ、牢に放り込まれた。
それから彼は極度の人間不振に陥り、流された後は鬼ヶ島にたどり着き、そこの大将として君臨する様になったのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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