「デジタルネイティブ」 <1> 次代を変える若者たちの肖像
三村忠史 /倉又俊夫 2009/01 日本放送出版協会 新書 189p
Vol.2 No.528★★★☆☆
NHKスペシャル「デジタルネイティブ」の取材班による、番組制作の振り返り、及び、ささやかな提案、というところだろうか。なるほどデジタルネイティブとは言い得て妙、とは思ったが、これには語源があった。
「デジタルネイティブ」という言葉を最初に使ったのは、アメリカの作家、マークブレンスキーだといわれている。日本では「テレビゲーム教育論」(藤本徹訳、東京電機大学出版局、2007年)という著書が発売されているプレンスキーだが、2001年に書いた教育に関するレポートの中で、現代の若者たちをデジタルネイティブと名づけ、「これからの時代は彼らに呼応する教育が必要だ」として次のように言及している。
『平均的な大学の卒業生は、これまで人生で5000時間以下しか読書していないかわりに、1万時間もビデオゲームをしている。そうなると、もうそれまでの人類とは違うものになっている。彼らは、複数のタスクを同時に処理し、情報を猛烈なスピードで受け取ることに慣れている。テキストよりも先にグラフィックを見ることを好み、ランダムに情報にアクセスすることを好む。インターネットにつながっているときがもっとも機能する。リアルタイムに評価されることを好み、仕事よりもゲームを好む。
今後、デジタルネイティブと呼ばれる新人類に対応した教育が必要だが、(それ以前の)「デジタルイミグラント」(デジタル移民)世代では、その対応は難しい』p80
2008年11月10日放送されたこのNHKスペシャルを、私は見逃したし、この本を読まなかったら、そういう番組があったことさえ、気がつかなかった。去年の11月10日と言えば、私は再読モードで、チベット密教などに夢中になっている段階であり、テレビを見ようという意欲もほとんどなかった時期と思われる。だからこの番組を見逃したから損したとは思わないが、見れば見たなりに面白かったろうに、とちょっぴり残念かな。
リアルタイムでテレビ番組を見なかったと言っても、ネット上にはこの番組のホームページもあり、その番組への反応もネット上で知ることができる。また、自分のデジタルネイティブ度というものも判定できる。私のデジタルネイティブ度は50%だった。例えば、ネットで知り合った人は沢山いるが、初めて知り合って実際にあった人は5人まではいない。むしろ、かつて会ったことのある人々と旧友を温めている、というところか。
さて、「次代を変える若者たち」としてのデジタルネイティブだが、個人的には、あまりに持ち上げてしまうのはどうかな、と思う。この本を読み、関連ネット上でちらちら目を通す限り、当ブログでいうところの、コンテナとしてのネット環境が出そろった時代に生まれてきたからデジタルネイティブと言われているだけであり、自らがコンテナそのものを作り出しているわけではない。
コンテンツとして、たしかに目新しい発想は当然あってしかるべきだが、ネット社会全体を造り替えるようなパワーを発揮しているとは思えない。すくなくともこの本で紹介されているものはごくごく小さな例でしかない。
「パソコン少年のコスモロジー」の奥野卓司のような団塊世代だろうと、孫正義、ビルゲイツ、スティーブ・ジョブズなどを排出した1955年世代や、梅田望夫がやたらと持ち上げる1980年前後生まれの世代であろうと、当然、赤ちゃんとして生まれ、すこしづつ成長し、少年少女時代を過ごしてきた。そして、幾人かの突出した人々が、新しい時代を切り開いて来たのは事実であり、いつの時代にも、デジタルネイティブような存在はいた。だからこの本でも取り上げられている若い世代が、次代を変えるというのは、当然のことだとしても、そのことだけを取り上げて、驚異的だとか、期待十分、というのはちょっと違うように思う。
それに一番気になることは、「コンテナ」、「コンテンツ」としてのネット社会から、「コンシャスネス」としてのネット社会への眼が、この本では確認できなかったことだ。たしかにデジタル移民よりデジタルネイティブのほうが、その社会になじみやすいだろうが、それは単純に生まれたときからテレビがあった世代、生まれたときから車があった世代、というのと同じ意味しか持っていないのではないか。
若いというだけでは人間の成長はない。若いだけで意味があるなら、人間、年齢を重ねる必要がない。10代があり、20代があり、30代、40代、あるいはシルバー世代があり、老いがあり、死がある。これらについて一貫した人生観、死生観をきちんと押さえた教育者こそが、これらのデジタルネイティブに対応すべき指導者たちなのではないだろうか。
ネイティブ・アメリカン、という時のネイティブと、ここでいうところのデジタルネイティブのネイティブの意味を違いを、はっきり押さえておかなくてはならない。
<2>につづく