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2018年02月05日
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質量の理解のために 質量と重さ(重量)を混用してはならない(日本計量史学会元会長岩田重雄)

 日本計量史学会の会長を長年務めていた岩田重雄氏は政府関係の研究所勤務から横に飛び出して天びんの研究に従事した人であった。質量の国家標準にかかわる業務が機械式の天びんを使って実施されていた時代に、特別に大きな天びんをある天びんメーカーの技術責任者として制作したのは大きな業績の一つであった。現在では国家標準も電気式ハカリを使って管理するようであるから隔世の感がある。質量のことを深く追求した岩田重雄氏は世の中で質量と重量が混同して使われていることや、質量の学校教育に深い関心を寄せていて次のような文章を日本計量新報に寄稿しているので再掲載して参考に供する。(日本計量新報編集部)

 はじめに

 現在、重さ(重量)を質量の意味で使うことが広く行われている。3年前のテレビで専門家が「ニュートリノの質量」について説明した後で、アナウンサーが「ニュートリノの重さ」と言いかえたことがあった。新聞の科学欄の中でも同様のことがしきりに行われている。度量衡の事典の中でも重さはあるが、質量のないものがある。

 一部の計量関係者でさえも計量記念日の行事などで重さ(重量)を質量の意味に多用しているし、質量計に重さと表示しているメーカーもいて混乱を助長している。

 先人の苦心

 中国で重さ(重量)に相当する重という用語は2千数百年前の墨子の弟子たちがまとめた墨子(雑守)に出てくる。また質量の文字は3世紀に作られた三国志に資質器量の意味で使われている。

 1595(文禄4)年の羅葡日対訳辞書にはラテン語のmassaの訳に「まるかせ」とある。1603(慶長8)年の日葡辞書には物を丸めた塊とある。もともと1800年以上前のラテン語では大麥のような粉をねって丸くした塊をさしていた。

 1687(貞享4)年にアイザック・ニュートンはプリンシピア(自然哲学の数学的基礎)の中で質量を「物質の量とは、その物質の密度と体積の乗積をもってはかられるものである」と定義した。

 国際的な統一

 1870~1872(明治5~7)年のリッテル述・市川盛三郎訳・理化日記には質量を「体の真量、乃ち体内実質の分量」としている。

 1879(明治12)年の川本清一訳・士都華氏物理学には質量とあり、これが質量の初出である。同年に出版された飯盛挺造編訳・物理学で質量を「絶対的ノ重サ」と定義している。かくして物理学訳語会は1883(明治16)年9月12日の会合で、質量という用語を公認した。

 重さ(重量)を質量の意味に使うためにおこる国際的混乱をさけるため1901(明治34)年にパリで開催された国際度量衡総会で、物体そのものを構成する物質の分量である質量(基本単位kg)と、質量と重力加速度の積に等しい重さ(重量)とは異なることを決議した。日本からも2名出席している。

 最大の問題

 現在、質量の意味に使っている重さ(重量)とその派生語はすぐに直すべきである。たとえば分析化学の重量分析は質量分析に、質量分析は英語のように質量分光分析に直す必要がある。

 最大の問題は小学校学習指導要領の第3学年算数に「重さの単位(グラム(g))について知ること」と誤ったことが書いてあることである。中学校の理科で質量や力の単位ニュートンが出てきても混乱するばかりである。こんなことでは理科離ればかりでなく、科学技術の発展も阻害されるであろう。

 一部の理工系大学では質量と重さ(重量)の違いを補習してから講義に入ることにしている。日本計量史学会の会員(元大学数学教育教授)は私塾で小学生に質量と重さ(重量)を同時に教え成功している。

 おわりに

 質量と重さ(質量)の混用は国際的な合意ができて百年以上もたつのに、日本では混乱が続いている。文部科学省に働きかけて、小学校低学年に質量と重さ(質量)を同時に教えるように学習指導要領を改訂すると共に、計量関係者が計量記念日などの機会を利用して積極的な行動をおこすべきであろう。





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最終更新日  2018年02月05日 19時23分11秒
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