ブリ鍋:東日本大震災で中止に、昨年の約束果たしたい 金沢の割烹主人、施設の子どもらに振る舞う /石川 毎日
昨冬、全国で「伊達直人」などを名乗る人物が「子どもたちのために」と現金や贈り物を届けた「タイガーマスク運動」。意気に感じた金沢市内の大衆割烹(かっぽう)「喜乃屋」の主人、住永栄治さん(39)は昨年3月13日、市内の児童養護施設の子どもたちにブリを振る舞う予定だったが、東日本大震災の発生を受け、中止した。住永さんは11日、再びブリ鍋を準備し、子どもたちとの1年越しの約束を果たす。【松井豊】
住永さんは創業60年の「喜乃屋」(金沢市昭和町)の3代目。かつて同市東山にあった老舗料亭「清風荘」で同僚だった美雪さん(37)と結婚。14年前、美雪さんの実家の喜乃屋を継いだ。住永さんと子どもたちとの“約束”のきっかけは、昨年3月まで児童養護施設「享誠塾」(金沢市平和町3)の施設長を務めていた旧知の杉本一省(いっせい)さん(68)の話だったという。
杉本さんによると「子どもの時に覚えた味は一生の財産。おいしいものを食べさせてあげて」として、享誠塾に約40年、寄付を続ける飲食店経営者がいるという。杉本さんは昨年初め、全国を席巻していた「伊達直人」騒動で思い立ち、住永さんにこの経営者の話をした。住永さんは「もうすぐ40歳になり、何か社会に貢献できることをしたい」と考え、「『伊達直人』のおかげで、私たちでも子どもたちのために何かできると分かった。うまい料理を食べさせてあげたい」と思い立った。
昨年の3月13日に享誠塾で10キロ級のブリを子どもたちの前でさばき、刺し身や鍋をつくる予定だったが、震災で中止を決めた。「今、一番助けを必要としているのは東北の被災地。ひとまず見送ることにした」と振り返る。
中止を受け、杉本さんは「子どもたちとの約束を守ることが大切。もう一度やってほしい」と住永さんに頼んだ。住永さんは、震災発生日の11日に「1年前の約束を果たす」と60人前のブリ鍋を用意して子どもたちを迎える。
住永さんは「震災発生直後、被災地では食べ物にも困った。当たり前のようにご飯が食べられることがどれほど大切かを考えながら、被災地の人たちに思いを向けてほしい」と話している。
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