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テーマ:ご当地グルメ(4564)
カテゴリ:ご当地グルメ
高知県のぼうしパンは本体より「みみ」の方が人気?/カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」 news.nifty 【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.33 高知県「ぼうしパン」】 今回のテーマ食材は見た瞬間に「ぼうしパンだ」と思った。 その名の通り、帽子型が特徴的な形のパンであり、私も食べたことがある。 しかし「ぼうしパン」には驚かなかったが、ぼうしパンが「高知のご当地パン」だということには驚いた。 そんなバカな、お前は誰でも知っているし、どこのスーパーにでもおるやんけと思ったが、私が知っているのは、ぼうしパンではなく、おそらく過去に山崎製パンが作っていた「メルヘンハット」他「ぼうしパン」の類似品であろう、ということが判明した。 ◆似たような菓子が全国に50種類以上ある「萩の月案件」 これは「萩の月案件」である。 仙台銘菓「萩の月」には「似たような菓子」が全国に50種類以上あると言われている。 何かがウケると、絶対に「似たようなもの」が生まれてしまうのだ。 しかし一過性の流行りものなら、本元が廃(すた)れた時点で類似品も消えるが、銘菓のようにオリジナルがずっと残り続けるものは、類似品の歴史も同時に長くなってしまう。 そうなると、その類似品こそがオリジナルと思っている人間も多くなる。私などは萩の月を見ると、地元山口のジェネリック萩の月こと「月でひろった卵」に似ている、と感じてしまうのだ。 よって、山崎製パンの「メルヘンハット」もしくはそれに似た「スイートブール」を知っている者はいるだろうが、おそらくそれの元になったと思われる「元祖ぼうしパン」が存在し、それが高知のご当地パンだと知っている人間は少ないのではないだろうか。 ◆ぼうしパンは「失敗」がきっかけで生まれた その元祖「ぼうしパン」だが、誕生したのは昭和30年ごろで、意図的にではなく「失敗」がきっかけで生まれたのだという。 とあるパン工場で、職人がメロンパンを作っていた時、普通メロンパンというのは生地を発酵させる前に、表面のビスケット生地をかけるのだが、その日はビスケット生地をかけ忘れたまま発酵してしまったそうだ。 それに気づき、発酵後の生地にビスケット生地をかけて焼いたところ、ぼうしのような形に焼き上がったのがぼうしパンのはじまりだという。 このようにぼうしパンはポンコツから生み出されている、ということである。 もちろん、人間だもの、とみつをが言っている通り、うっかりは誰でもある。ビスケット生地をかけ忘れて発酵しちゃうこともあるだろう。しかし、ここで生真面目な人間なら「これは失敗だ売り物にならねえ」と廃棄したり、その時点で上司に報告したりするだろう。 おそらくだが、この職人は「何とかごまかせねえかな」と思ったんじゃないだろうか。 「発酵後にビスケット生地をかけても普通のメロンパンが出来上がって失敗がバレない」方にワンチャンかけたのではないか、少なくとも私がその職人ならそうしたと思う。 その結果、メロンパンにはならなかったが「別の何か良さそうなもの」が爆誕したのである。 ◆この世にボンクラがいなかったら、我々の食生活はもっと貧しかったかも このように「人間のうっかりや、だらしなさから生まれた料理」というのは結構存在するのである。特に「忘れて放置していたら、何かできてた」という料理はかなりある。 つまりこの世にボンクラがいなかったら、我々の食生活はもっと貧しかったかもしれないということだ。もっとボンクラに感謝すべきである。 そんなうっかりから生まれたぼうしパンだが、その後試行錯誤の末ビスケット生地ではなくカステラ生地を使った「カステラパン」として売り出された。しかし、何せ形がぼうしなので客から「ぼうしパン」と呼ばれそのまま定着したという。 ◆ぼうしのツバ、つまり「みみ」部分がおいしい 味は「甘いパン」という言葉がぴったりな、柔らかく素朴な甘さのパンだ。 この嫌いな人がいなさそうな感じは萩の月に通じるものがある。「派手さはないが決して消えない」という感じがする。 そしてぼうしパンには本体のパン部分と、ぼうしのツバ、つまり「みみ」部分がある。パンにかけられたカステラ生地のみが焼かれた部分だ。 この「みみ」こそがぼうしパンの本体という人もおり、私も実も「みみ派」である。 このみみ部分はパン部分に比べサクサクしていておいしいのだ。 ◆「ぼうしパンのみみだけ」の製品も売られている しかもこの「みみ派」は少数派ではなく、むしろ「本体派」よりも多いそうで、その「みみ派」のニーズに応えるため「ぼうしパンのみみだけ」の製品も売られているのである。 これはぼうしパンだけではない。山崎製パンのメルヘンハットも「メルヘンハットのみみ」という、みみ部分のみの商品が売られている上、本体の「メルヘンハット」よりもこの「みみ」の方がよく売られている。というか「みみ」しか売ってないことも良くあるので、私は「みみ」の方を先に知り、その後本体があることを知ったという感じだ。 このように、人間のうっかりから生まれ、その後本体よりも、その副産物の方がウケる、という、その素朴な見た目と味には似つかわしくないドラマがぼうしパンには秘められているのである。 <文・イラスト/カレー沢薫> 【カレー沢薫】 かれーざわ・かおる 1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』、コラム集に『負ける技術』『ブスの本懐』『やらない理由』などがある お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019年01月22日 09時21分36秒
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