『マリといた夏』
マリ・イヤギ/ My Beautiful Girl,Ma-ri 2001年/韓国 シズ・エンターティンメント作品監 督:イ・ソンガン脚 本:カン・スジョン、イ・ソンガン音 楽:イ・ビョンウ/ 主題歌:ソン・シギョン、挿入歌:ユ・ヒヨル声の出演:イ・ビョンホン、アン・ソンギ、コン・ヒョンジン、ユ・ドックァン、 ソン・インギュ、イ・ナリ、チャン・ハンソン、ナ・ムニ 真っ白な雲を抜けて、何かが飛んでいく。雪に煙る町並みが映る。飛んでいるのはカモメ。抑えた色調の中、カメラはカモメを追う。時にはカモメの視点になる。流れる映像。やっとカモメが枝にとまる。「こんな所にカモメが」主人公ナムが窓辺に立っている。窓ガラス越しにカモメとナムが見つめ合う。カモメは飛び去り、ナムの物語が始まる。…何て美しいイントロ。カモメの代わりに猫が所々に出てくる。ナムと友人のジュノが話し合う、その足元にも数匹の猫が歩いていく。雪の降る都会から、夏の田舎町に舞台が移る。それは遠い夏の日、ナムの少年時代。子供のナムは野良猫を可愛がっている。こういう繋がりが好き。緑の濃淡、薄い水色の空と薄いベージュの地面と白いシャツ…この微妙な色相の差が良い。輪郭線のない、面で描かれた人物。全体に抑えた色あい。見ているだけで涙が浮かんだ。ナムは、別れの悲しさを知っている。父を亡くした心の傷は、まだ癒えていないのに親友ジュノは遠くに引っ越すことが決まっている。祖母も弱ってきている。そんな中、出会った不思議な少女マリも、やがて彼から去っていく。マリとナムが頬に触れ合うシーンで、これまた涙が浮かんだ。『となりのトトロ』に似ていると指摘する人もいるらしいけど私は、あまり感じなかったな。細かい点をつけば、彷彿とさせるものはあるけれどそれを言ってしまったら、ファンタジーは皆似たようなものということになってしまう。私個人の感覚かもしれないけど、トトロは明るくエネルギーがあり、現実とファンタジーは地続きの雰囲気でだから、どこかにトトロは確かにいるのかもしれない…という夢を描けた。マリの世界は、現実とは切り離されている雰囲気。もしかしたら、そこにマリはいるのかもしれない…でも、簡単には出会えない。決して会うことはないかもしれない。うっかり触れたら壊れてしまいそうな脆さと、そこはかとない悲しさを感じる。もしかしたら、ナムの心が作り出した幻影に過ぎないのかもしれない…そういう、ある意味悲痛な感じも。それに、子供時代のまま幸福に終わった『トトロ』に対し、こちらの主人公は既に大人になっている。子供の時は、もはや失われてしまっている。そこに悲しみがある。ラスト・シーンは色々な解釈ができると思う。でも、今は考えることができない。理屈を排除して、心がただ締め付けられて泣けて泣けて仕方がない。あの時「忘れない」と、誰かと約束した気がする「心にしまっておく」と…誰だったんだろう僕自身だろうか☆やっくんち☆◇人気映画・TVBLOG◇ポニーキャニオン マリといた夏