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カテゴリ:ロボザムライ
ロボサムライ駆ける■第3章9
飛鳥京香・山田企画事務所 第3章 (9) それは巨大なガラス箱に見える。 西日本都市連合の議場は、京都郊外にある新京都ドーム都市の中に造られていた。 この議場全体は透明強化プラスチックフレビレンガラスのドームで覆われている。中から近畿の外界がよく見えた。西日本の各市を代表する代議員が、--各市の場合、市長が多いのだが、 その一人一人がこの議場に送り込まれていた。 近畿新平野がフラットだけに、ドームからはすべての町々がよく見える。レザー光線がよく届くのだ。 各議員は、丁髷の上にヘッドベルトを巻いている。その後半分にレザー光線集約装置がついている。レザー光線は各都市の市議会との連絡ができる。直接アクセスができるので、嘘の発言はできない。 各都市の市章が、各々の羽織りに鮮やかに描かれている。 各々武士階級の出身者が多い。がしかし、腰の大小は議会場内の持ち込みはご法度となっていた。 いよいよ、全国都市会議が開催されたのだ。 が、いかんせん意見の一致するところは少ない。 二十年前に起こった「霊戦争」の影響で、日本は東西に大きくわかれていた。ロボット奴隷制の西日本と、ロボット自由主義の東日本である。 霊戦争のおり、東日本では人間が数多く亡くなり、社会のシステムとして、ロボットに人権を与えなければ立ち行かないエリアとなっていた。それゆえ、統一国家としての日本の態をとるのは非常に難しい。それは「霊戦争」以後、どの国も同じであった。 落合レイモンは、東日本を代表してこの会議に出席している。 東日本側の立場としては、統一を望んでいるのが事実だ。現在の関が原関所により人的交流、ロボット的交流が阻害している現在では、日本国家としての発達は望めなかった。加えて、レイモン、あるいは、徳川公国の徳川公廣にとって、心を曇らせているのは、ロセンデールの動きである。 ロセンデールは神聖ゲルマン帝国の後援を受けて、日本へ来ている。 神聖ゲルマン帝国は、日本が再び統一国家として国力を充実するのを望んでいない。極東の分裂国家として存在してもらう方が、有り難かった。つまり、支配しやすいと言う訳だ。 落合レイモンは、議場で訴えていた。 「日本は、心柱(しんばしら)によって統一されるべきです」 「その心柱というのは、実際どこに存在するのだ」 議場のあちこちから罵声が飛んでいた。レイモンは声をおとした。 「西日本の方々、真実を申し上げましょう。その場所はすでに発見されておるはずです」 レイモンの顔は自信に満ちている。レイモンのこの発言の後、会場は一瞬無言となり、それから蜂をつついた騒ぎとなった。人の頭があちこちしている。熱気がドームを包む。「どういうことだ」 「説明しろ」 がなり声がつづいた。 続けてレイモンは、指で指し示しながら 「西日本都市連合の議長、水野栄四郎殿がすべて、ご存じのはずだ」 『議長団席』の一角に占める水野の方に、人々の眼が集まる。議員の一人が言った。 「本当ですか、水野様」 水野は二メートルもある長身を急に立ち上がらせた。場内は水を打った静けさとなる。皆聞き耳をたてているのだ。 「諸君、落合レイモン殿の諌言に惑わされてはなりませぬ。レイモン殿は、我々西日本の纏まりを壊すためにこの会議に派遣されてきたのだ。我々が、その心柱を探すために何年かけてきたと思う。ここで説明しておこう。ロセンデール卿に心柱を探すことをお手伝いしていただいておるのは、卿が優れた霊能力者であり、かつて各国の心柱の幾つかを発見なさっておるからだ」 水野は断固とした口調で、すべてを締めくくった。会場が落ち着く。が、再び、 「まて、水野殿。ロセンデール卿は各国の心柱を発見することによって、その国を神聖ゲルマン帝国の支配地にされなかったか。ロセンデール卿こそ、新しい帝国主義のまわしものであるこに、諸君は気がつかれぬのか」 レイモンは言い切った。再び、爆弾発言である。 「誹謗だ。誹謗だ」 議席のあちこちから声が上がり、レイモンに向かって人々がこぶしを振り上げ殺到してくる。議会はパニック状態になる。 「いかん、主水。レイモン様をお助けしろ」 夜叉丸は立ち上がった。議場の控室にいた主水の耳のレシバーから、レイモンの付け人夜叉丸の叫びが響いた。 「レイモン様を無事に議場から脱出させよ」「が、夜叉丸殿。議場警備員たちに任せた方がよいのではないか」 「馬鹿者。あの議場の暴徒の中に、ロボ忍が交じっておったらどうする。あやつら、レイモン様を誘拐し、心柱の利用にレイモン様の力を使うつもりだ。わたしの後に続け」 「道を開けろ」 主水は叫んで、飛び出して行った。 「こやつは」議場の警備員が罵声をあげる。 議会は混乱状態だ。そこに主水が飛び込む。「ロボザムライだ」 「何、東日本のロボットが、人間の議場にいるじゃと」 ロボザムライを目がけて、いろいろなものが飛び交う。まるでレスリング会場だ。主水は思わず左腰に手を当てる。が、刀はそこにない。「むっ、しまった」 (しまったのは、西日本の役人だが…) むろん、主水はムラマサを抜くわけにはいかない。西日本に入るとき、関が原で刀は預けさせられている。 主水としては、立ち塞がる暴徒たちを当て身で倒していかねばならない。 但し、人間に傷を負わせるとこの西日本エリアでは重罪となる。 すばやくなぐりたおした人間が山となっている。レイモンのところへようやくたどりつく。 数十人の人間に囲まれているレイモンは、まるで団子だ。主水は一人一人をレイモンからはぎとっていく。ようやくレイモンの顔が見えた。 「レイモン様、ともかくこの場をお離れください」 「おお、夜叉丸に主水か、助けにきてくれたか。どうも私の言葉は人気がないようじゃのう」 レイモンは我と落ち着いている。 「主水、御前を連れて先に逃げてくれ」 「夜叉丸どのは……」 「私は、後ずめじゃ」 「こころえもうした」 「レイモン様、お体を持ち上げますぞ」 「わしの薬品混合タンクを忘れるなよ」 一言付け加えるレイモン。 主水は、レイモンの体を、薬品タンクつきで持ち上げ跳躍した。 「レイモンが逃げるぞ」数人がそれをとめようとする。 「待て、待て。おまえ達の相手は私だ」夜叉丸が名乗りをあげる。 「何物じゃ、お前は……」 「こおいうものじゃ……」 数人の議員があっと言うまに床に倒されていた。 その間に、主水は議席の背もたれの約十センチ幅の部分を、次々と跳びはねて、ようやく議会室外へ逃げ出していた。 いまや、議場は「レイモンを追え」の罵声に満ちている。パニック状態である。 ようやく議場外の回廊に出た。が、そこに男がいる。まったく唐突にその男は現れていた。蓬髪に、羽織りのロングコートで顔ははっきりわからぬ。 「レイモン、まて、売国奴め」 男はナイフを手にしている。レイモンにぶち当たってくる。どうしてこの議会に武器が…… 「いかん」 主水はナイフの前に自らの身を投げた。 が、その一瞬主水の持病が出た。その時精神が空白となる。主水の体は倒れる。主水の体重は並の重さではない。人間の三倍はあるのだ。 ナイフを突き出す男の腕ごと、主水の体で圧しつぶしていた。 「ぐわっ」男の腕はボキボキと折れ、気を失う。 「なんと、レイモンの護衛ロボットが人間を傷つけたぞ」 まわりの人々が走り寄る。 警備員がようやく気付き走ってくる。 「何だと」 人々は殺気立っている。 「待て、待ってくれ。この男はレイモン様を殺そうとしたのだ」 再び意識を取り戻した主水は叫んでいる。「うそを申すな。その証拠がどこにある」 口々に人は糾弾する。 「この男がナイフを…」 が、男のつぶれた手には肝心のナイフがない。 「レイモン様、ご助言を」 振り向いた主水。が、レイモンの姿も消えている。 呆然とする主水。 「これは、一体……」 「ロボザムライめ、おとなしく捕縛されよ」「何をいうのじゃ」 主水は戦う姿勢をみせた。こうなれば戦わざるを得ない。 「こやつは我々人間に刃向かうつもりじゃぞ」「死二三郎、狼藉者である。出番じゃ」 「ようし、我々も、究極兵器を使うのだ」 議会の護衛が大声でどなる。回廊にジャーンと音が響く。 廊下の床が割れ、そこから何かが急にが起き上がってきた。それは何と刀を持つ侍ロボットであった。 ドラキュラかおまえはと思う主水。侍ロボットは、かっと眼を開く。 「おおう、久しぶりで、わしの出番か。ありがたし」 声はかすれている。あまり、出番などないのであろう。 そのロボットは、ブルーの着物をきて、髪は、後ろは束ね、前は垂らしている。曇った虚無的な眼差しをしている。体の大きさは、主水と同等である。主水の方をゆーるりと見る。 「貴公か。人間の命令を聞かぬロボットなど、生きながらえる意味なし、死にそうらえ」 冷たい声音であった。 恐るべき雰囲気がそのロボットから発されている。 死二三郎は刀を構えるが、あることに気付く。 「うむ、貴公、東日本のロボザムライか」 「そうだといえばどうする」 ニヤリと笑う死二三郎。 「ふふう、相手にとって不足なし。お相手されよ」 主水に武器がないことに気付く。 「剣には剣でじゃ。剣を取られよ」 そのロボットは、自分がはい出てきた床の下の収蔵庫から剣を取り出し、主水にその剣を投げる。 「かたじけない」 主水は、剣を受け取ろうとした。主水に隙が生じている。 そう言った瞬間、相手は動く。 「ぐっ」 ごとりと何かがころがった。思わず、主水は右手で切り口を触る。 「ひきょうなり」 主水の左腕が見事に切り離されていた。習練の早業である。痛みの感覚が後から、主水を襲ってきた。 「ひきょうという言葉は俺にはない。勝負がすべてじゃ。次なる剣は貴公の首か、あるいは右腕か、どちらか決められい。そのように料理してくれよう」 この対峙する死二三郎は主水があったロポザムライの中で、一番の使い手だった。 「まて、死二三郎。そやつには聞きたいことがある。死に至らしめるな」 護衛がまわりから遠く離れて叫んでいる。誰も危険なところには近づきたくないのである。 死二三郎は、主水に視線を置きながら、護衛たちの方へ怒鳴っている。 「お言葉でございますが、ロボザムライにはロボザムライの義というものがござる。ここは義に免じていただきたい。剣の敵に助けられたとあっては、武士としての面目が潰れ申す。我が手で、このロボザムライ死に際をきれいにいたし申す」 「ならぬ、死二三郎。命令である。このロボザムライを助けよ、さがれ」 護衛は呼ばわった。 「死二三郎殿とやら、拙者も生き恥をさらしとうはない。どうか一刀のもとに貴殿の手で」と主水はつぶやきながら、チャンスを見ている。こやつには狂人の論理で立ち向かわねば。こやつは剣のことしか考えておらぬロボットだ。 「お覚悟されよ、そういえばお名前を聞いておらなんだな。何と申されるのだ」 「拙者、早乙女主水。徳川家直参旗本ロボット」 「おお、貴殿が噂に高い主水殿か。相手にとって不足はない。さらにお覚悟召されよ」 「死二三郎、待て」 護衛全員が叫ぶ。切りかかろうとする死二三郎。 その一瞬、天井から電磁網が死二三郎の体を襲う。電磁網は魚をとらえる投網のようなものである。魚のかわりに、ロボットだ。死二三郎は黒焦げになって倒れる。議会護衛がいいことを聞かぬ死二三郎を処分したのだ。「こやつは狂犬か」 護衛の一人が倒れている死二三郎の体を蹴る。 「いいや、狂犬より始末に悪い」 「だから申したであろう。気違いに刃物。ロボットに刃物と」 護衛同志の会話である。左腕を失った主水は、まだ戦う姿勢を見せていた。 「ええい、このロボットもからめとれい」 電磁網が天井から降りてくる。 電撃が主水の体を走る。 「いかん、わしも魚か」主水の意識がフェイドアウトした。 続く C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://www.yamada-kikaku.com/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.05.31 19:43:42
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