地球人スピリット・ジャーナル2.0につづく
「雪の下の炎」 バルデン・ギャツォ・著 檜垣 嗣子 1998/12 原書 FIRE UNDER THE SNOW 1998 新潮社
体調を崩して、春風邪をひき、節々の痛みや咳込みをしながら、この本を読むと、異国において、希望のない30年間の監獄暮らしをした著者バルデン・ギャツォの苦悩が、いっそうわが身のいたみとして感じることができる。いやいや、風邪やかすり傷などと比較されて論じられるべき本ではない。20世紀半ばにおいてアジア大陸でのできごと。中国共産党によるチベット侵攻時における、ひとりの僧侶の、まれにみる人生苦悩のドキュメンタリーだ。
雪の下の炎、というタイトルの中に、真っ白な銀世界に対峙する、チベット人としての、ダライ・ラマや祖国チベットへの、あざやかな真紅の情熱が、はっきりと見えてくる。
チベット人は風吹きすさぶヒマラヤ高原に花開いた文明を誇りに思い、それが破戒されたことを嘆いている。それは、チベット問題で支援してくれている人の多くが信じたがるように地上の楽園をみつけたから、あるいはかつて完璧な社会に暮らしていたからではない。チベット理想郷(シャングリラ)などではない。欠点もあれば不順な点もあるのだ。私たちの歴史は輝かしい時代と豊かな創造性に彩れているが、指導者の愚行、支配者層の腐敗、庶民の貧困も身受けられないわけではないのである。世界中のどの国の歴史をとってもそれは変わらない。p11「前書き」ツェリン・シャキャ
ダライ・ラマや有数の転生活仏だけに、関心がむいているわけではなく、少年少女や一般の人々がどのような生活を送っていたのだろうか、というところにも、かなり関心を引かれる。この本では、一人のチベットの少年が、出家して戒を受け、上昇志向をもちながらも、チベット人としてのライフスタイルが、中国共産党によって大きく壊されていく過程が描かれている。
いまやロシアをはじめ、多くの共産主義国家が倒れてしまったあとに、独自の社会主義国家を成立させた中国の、今後の動向が試される。この本では例の観音のマントラは、文字の大きさの違いによって、更にチベット語化されている。
オム・マニ・ペメ・フム