数年前、『信田の藪』という歌を練習しました。
野口雨情 作詞、 藤井清水(きよみ)作曲 で
お背戸(せど)の お背戸の 赤とんぼ
狐(きつね)のおはなし 聞かせましょう
聞かせましょう
糸機(いとはた)七年(しちねん) 織りました
信田(しのだ)の狐は 親ぎつね
親ぎつね
信田の お背戸の ふるさとで
こどもに こがれた 親ぎつね
親ぎつね
お背戸の お背戸の 赤とんぼ
明日(あした)も お藪(やぶ)に来てとまれ
来てとまれ
こちら で 旋律、こちら で 歌を お聞きいただけます。
歌詞もメロデイも、私はとても気に入っているのですが
『きつねのお話し 聞かせましょ』 と言っているのに
それほどのお話も聞かせてももらえず、ちょっと
物足りなく思っていました。
ところが 今日、わかりました~
日本の民話 4 『民衆の英雄』 の 中に
≪童子丸≫ があり、その主人公が 歌に出てくる
信田のきつねの子ども・・・とのことです。
それで、かなり わくわくして
その前半を 転載させていただきました。
童 子 丸
むかし、あるところにひとりの若者がおったそうな。
さむらいの出やったそうなが、いろいろなこともあって、
このあたりにひとりで住んでおった。
あるときのこと、原っぱを通りよったら、
はるか向こうの森で犬がわんわんほえ、騒がしい。
ははあ、狩りをしとるな、と思うまもなく
一匹のまっ白なきつねが飛んできて、
若者の前へ来ると、しきりにお辞儀をした。
『かわいそうに追われとるのか。
しかし、お前も人をだますほどの白ぎつねやないか。
さあ、力を出して逃げてみい』
若者はそういい聞かせた。そういう間にも、
『逃がすな、それ、そっちだぞ』 と、
声をあげて狩人たちが近づいて来る。
『さあ、早う行け』
若者が一声励ますと、白ぎつねも力づけられたか、
見るまに白いねずみとなって坂を駆け降りて行った。
そこへ追っ手の狩人たちが駆けつけた。
『今ここに白いきつねを追い込んだが知らんか。
知らんとは言わせぬぞ』
『知らん』
『知らんはずはない。さては逃がしたな』
『知らんものは知らぬ』
若者がどこまでもつっぱったので、
狩人たちはたいそうおこり、若者を取り囲んだ。
向こうは多勢でこちらはひとりかなうはずがない。
若者はさんざんに打ちたたかれたそうな。
その晩のことだった。
若者が、からだは痛む、熱は出るでうんうんうなっとると、
ほとほとと戸をたたいて、
ひとりの女が尋ねて来たそうな。
なんとそれは葛の葉というて、
若者がさむらいっだたころの許嫁やった。
葛の葉は若者のぐあいが悪いのを見ると、
たまげて飛んで上がり、傷の手当てをするやら
冷やすやら粥を煮るやら、かいがいしく看病してくれた。
そのうちに男と女のことだもの、帯ひも解いて休むこともある。
かわいい男の子が生まれて名を童子丸とつけ、
しあわせに暮らしておったそうな。
ところが童子丸が三つになったころから、
童子丸は不思議なことを父親にいうようになった。
『かかさまはかえるが好きだねえ、
かえるを見ると飛んで降りるよ』
『かかさまは大きなしっぽでお庭を掃くよ』
若者は不思議でならん。
ならんけれども小さな子どものいうことだから、
そのままにしておいた。
するとある日のこと、若者が外にいると、
近づいて来る美しい女がある。
旅姿の、紛れもない葛の葉だった。
『おなつかしゅう』
と 駆け寄って来た葛の葉は、
涙をほたほたとふりこぼした。
若者は驚いて声も出ん。
ふり返れば家の中で葛の葉が、
ちょんちょ、ちょんちょと機を織っている。
あちらにも葛の葉、こちらにも葛の葉、
そこへ童子丸が走って来て、
『あちらにもかかさま、こちらにもかかさま』
と、目をまるくした。
『このお子はどこの子』
と、旅姿の葛の葉はいう。
『さあ、この子は・・・』
若者は呆然と童子丸を引き寄せて、ことばもなかったそうな。
いつの間にか、機の音はやんでいた。
『かかさまがいない』
そういうて童子丸が家の中に駆け込んだ。
するともう機台に人影はなくて、
障子に墨黒黒と、歌が書き残されてあったと。
恋しくば尋ねて来てみよ和泉なる
信太の森のうらみ葛の葉
若者は童子丸の手を引いて、信太の森を尋ねて行った。
森は暗くてどこまで行っても果てもないようやった。
そこで、若者は、
『この子の母がいたら、出て来てくれい』
と、血を吐くように叫んだそうな。
すると向こうの木の陰からひとりの女が歩いて来る。
見ると葛の葉だった。
今、町からもどったというように童子丸を抱きよせて、
『私はこの信太の森に住む白ぎつねでございます。
危うい命を助けてもろうたありがたさ、
私のために傷を負わされた申しわけなさに、
ついついおそばにいさせてもろうて、
この子まで産んでしまいました。
この白い玉を形見にあげますゆえ、
夜泣きしたらしゃぶらせてください。
もう二度とわたしを捜してはいけません』
というて白い玉をわたすなり、
たちまち白ぎつねの姿になって消えてしもた。
父と子はとぼとぼと帰り道についた。
暗い森はもう西も東もわからんようであったが、
道案内をするように、葛の葉が
白い葉裏をひらひらと翻しておったそうな。
それから年月がたった。
童子丸も十歳の上になったそうな。
ある日のこと、童子丸が
かかさまからもろうた白い玉を手に持って、
木の下に寝転んでいるとからすどもが集まって
何やらガアガア騒いでおる。
童子丸が何の気もなく玉を耳にあててみると、
その玉は不思議な聴耳の玉で、
からすの話がすっかり聞こえてきた。
・・・ 後 略 ・・・
★近畿地方・昔話 再話/松谷みよこ 発行/角川書店・昭和48年 初版
原文は縦書きです。このブログ用に多少、行変えなどをさせていただいております。
こちら によると、
葛葉明神の化身である信太狐(しのだぎつね)が
子と夫を残して、森に帰るときに詠んだ
歌の碑があるそうです。
こちら に よると、
葛の葉(くずのは)は、伝説上のキツネの名前で
童子丸が、陰陽師として知られる 安倍晴明である
また、このお話しは「被差別部落出身の娘と一般民との
結婚悲劇を狐に仮託したもの」とする解釈もされている
・・・とのことです。
こちら には つぎのようなお話しもあって
転載させていただきました。
きつね女房
昔あるところに貧乏な兄やんがいた。
貧乏で嫁のきてが居なかった。
あるとき嫁にしてくれと女の人がきた。
よく働く嫁だった。
そのうち男の子が生まれた。
隣のおばさんがこっそり覗くと、
その嫁の服の下から尻尾が出ていた。
おばさん「狐だ、狐だ」と大声で叫んだ。
見つかってはここには居られないと、その狐は唐紙に
恋しくば 尋ねてくりょうし
篠田の森へ 篠田の白狐
と書いて山へ帰っていった。
夕方、兄やんが帰ってきて、嫁が居ないことに気づく。
兄やんは、泣く赤ん坊を連れて裏山に行き、
「坊のおっかあ」と呼びかけた。
すると嫁の姿になった狐が出てきて赤ん坊に乳を与えた。
赤ん坊が泣くたびに山に連れて行き、狐の嫁から乳を貰った。
そのうち、田植えの時期になった。
兄やんは赤ん坊が居るので田植えが出来ないままだった。
ある朝早く遠くから
「こあるなかだよ(子ある仲だよ)つつぽにみのれ
(役人に見つからないように、茎の中に実れ)」
と田植え歌が聞こえてきた。
兄やんが外に出てみると自分の田がすべて
青田になって田植えが終わっていた。
向こうのほうを早乙女姿の大勢の狐が
その田植え歌を歌いながら帰っていくところだった。
それから、兄やんの田んぼは水が涸れることもなく、
雑草も生えず、秋になった。
年貢を取り立てる頃になっても
兄やんの田んぼには穂が無かったので、
年貢は取られなかった。
それでも兄やんは稲を刈り取って家に持ち帰った。
不思議なことに、穂先にあたるところを裂いたら、
そこから白い米がぽろぽろといくらでも取れた。
それで、赤ん坊と兄やんは暮らしに困ることは無くなり、
安楽に暮らしたとのことだ。
【お話、お話】
日本の民話集より 『竹の精のかごや姫』