653444 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2016年01月19日
XML
カテゴリ:AVE予告篇
  ジョン・シェイドの外貌はその男の中身とあまりにもそぐわないために、人びとはそれを粗野な偽装だとか、ほんのかりそめのものだと感じがちなのであった。と言うのも、ロマン派時代の流行が、魅力的な首をむき出しにしたり、横顔を省いたり、卵形の眼球のなかに山の湖を映し出したりすることによって、詩人の男らしさを希薄化することにあったとすれば、現代の詩人たちは、おそらく老齢まで生きのびる機会に恵まれているせいなのだろうが、ゴリラや猛禽類に似ているのである。畏敬すべきわが隣人の顔も、いっそのこと獅子だけとかイロコイ族(割注:北米インディアンの種族)だけを思わせるのだったならば、ことによると目を奪うようなものが何か備っていたかもしれない。しかし不運にも、その二つを合せ持ったために、その顔は要するに男女の区別の定かならぬ、ホガースの絵に描かれた飲んだくれを思わせるばかりなのだ。   

(ナボコフ『青白い炎』前書き、富士川義之訳)

  トインビーは、スパルタのミストラの丘の上の白のてっぺんに腰を下ろし、一八二一年にそこを壊滅させた蛮族が残した廃墟を眺めていた。まるで今にも、その蛮族たちが地平線の彼方からだしぬけにどっとあふれ、この街を滅ぼしつつあるように思われ、昔のことがありのまま(、、、、、)に起こったことに彼は打撃を受けた。

(コリン・ウィルソン『時間の発見』第5章・5、竹内 均訳)

  あたしがジェイクに恋したのは、ジェイクの頭がよかったからじゃない。あたしだってけっこう頭はいい。頭がいいっていうのはいい人だってことじゃないのはあたしだってわかるし、学識があるってことでさえないのもわかる。頭のいい人が、いろんな厄介事を自分で招いてるのを見ればそれくらいわかる。

(ケリー・リンク『余生のハンドバッグ』柴田元幸訳)

  クロフォードの背後の斜面の木々が折れたり倒れたりしている。丘そのものが目ざめて自分の器官である木の絨毯を投げすてているかのようだ。海が鍋のお湯のように泡だっている。空いっぱいに幽霊が勢いよく飛びかっている。

(ティム・パワーズ『石の夢』下・第二部・第十七章、浅井 修訳)

  まぎれようもない態度を何か示すべきだ。だが、ハトン氏は急におびえてしまったのである。彼の身内に発酵(はつこう)したジンジャー・エールの気が抜けたのだ。女は真剣だった──おそろしく思いつめていた。彼は背筋が冷たくなるのを感じた。

(オールダス・ハックスレー『モナ・リザの微笑』龍口直太郎訳)

  町が変わりつつあることは、ブリケル夫人にとってはべつだん驚くほどのことではなかった。小さいときからずっと見てきた子どもたちも、いずれ大人になって、それぞれ子どもを持つようになるはずだ。最近は、かつてのように都会に出て名をあげようとするのではなく、小さな町でゆったりと暮らしたい、という人も多くなった。そういう人たちは何かを経験しそこなうことにはなるだろうが、逆に得るものもあるはずだ。日々が連続しているという感覚や、帰属感といったものを。

(アン・ビーティ『貯水池に風が吹く日』8、亀井よし子訳)

 
  スケイスは蛇口を締めて、その規則的な静かな滴りを止めたい衝動にかられたが、こらえた。   

(P・D・ジェイムズ『罪なき血』第三部・6、青木久恵訳)

  それじゃ宇宙は電子からなっているのね。その電子は、カ空間がとても小さく丸まってできた極(ごく)微(び)の輪なのね。そうなのね、ヤリーン?

(イアン・ワトスン『存在の書』第三部、細美遙子訳)

  アンジェリーナ・ソンコは今や二重ヴィジョンで世界を眺めており、第二の景色が現実の世界を明るく照らし、明晰化し、絶えず作り変えてゆく。

(イアン・ワトスン『マーシャン・インカ』I・7、寺地五一訳)

  もうひとりの男はジェミーと紹介された。《長老》? そんな歳には見えない。だが、このひとたちにとって〈老〉ということばは〈賢明〉を意味するのかもしれない。その点では、かれにはその資格がある。多くの人間に見られる未完成なところが、このひとにはみじんも感じられない。彼は──そう、完璧だ。

(ゼナ・ヘンダースン『忘れられないこと』山田順子訳)

  アメリカの上層中流階級の市民はいろいろな否定の合成物だ。彼らは主として自分がそうではないものによって表現されている。ゲインズの場合はそれ以上だった。彼は否定的であるだけでなく、絶対に目に見えない存在で、つかみどころのない、かといって非の打ちどころのない存在だった。シーツか何かの布切れをかぶせて輪郭を浮かび上がらせないかぎり姿を現わすことがない幽霊がいるが、ゲインズはそれに似ていた。彼はだれかほかの人間のオーバーを着たときに姿を現わすのだった。

(ウィリアム・バロウズ『ジャンキー』第六章、鮎川信夫訳)

  こういう状況だというのに、ジョニイは力強さと生気をみなぎらせていた。こんな人間にはめったにお目にかかれるもんじゃない。説明はむずかしいが、いままでにも何度か、部屋にいならぶ大物たちが、ジョニイのような人物を中心にして、ひとりでに動きだすのを見たことがある。そんな感じをいだかせるのは、その控えめな態度や感性だけじゃない。ものを観察しているだけのときにも放射している、独特の力強さもそうだ。

(ダン・シモンズ『ハイペリオン』下・探偵の物語、酒井昭伸訳)

  オードリーの首の中に脊椎骨がひょい(ポツプ)と現われる。アーンは舌をチッと鳴らす。オードリーがじっと鏡の中のトビーの虚ろな青い目を一心に見つめると、生まれたばかりの死霊のような乳白色の肉が自分の体に張りついているのが見えた。

(ウィリアム・S・バロウズ『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』第三部、飯田隆昭訳)

  飛行機の旅はよかったかとか、ブロンズの鐘を鳴らしたかとか、と彼女が訊いた。善良な老シルヴィア! 彼女は物腰の曖昧さ、なかば生来の、なかば飲酒したときの好都合な口実として培った無精な態度の点で、フルール・ド・フィレールと共通するところがあった。しかもあるすばらしいやり方で、その無精な点を弁舌癖とうまく結びつけていて、お喋り人形に話の腰を折られる訥弁な腹話術師を思い起こさせるのだった。

(ナボコフ『青白い炎』註釈、富士川義之訳)

 

全行引用詩『ORDINARY WORLD°』 40/45 へ






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016年01月20日 09時53分29秒
コメント(0) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
別の画像を表示
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、こちらをご確認ください。


PR

カレンダー

サイド自由欄


  Art詩スライドショー

  作へ

  注目作へ
   紫苑1~水原紫苑の歌によせて
     新たなイラストの扉がいま開かれた!




    詩誌AVENUEの 掲示板

    詩誌AVENUEの 私書箱

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

日記/記事の投稿

カテゴリ

フリーページ

塚元寛一のお部屋★


創刊に向けて


コラボ詩の心得


顔文字詩


『ふろいど』のために


311


オリジナル意訳詩


TITANのお部屋★


『ふろいど』


動物さんたち 1


動物さんたち 2


作家の部屋★


poet 塚元寛一さん


poet 田中宏輔さん


poet 香鳴裕人さん


artist 羊谷知嘉さん


poet samleさん


reviewer 澤あづささん


poet NORANEKOさん


poet 天野行雄さん


poet 黒木アンさん


poet はかいしさん


poet 紅魚。さん


poet しぇりーいすちゃん


poet 泡沫恋歌さん


e-shi トラ太郎さん


e-shi 黒沙鐶ミイカさん


e-shi コマさん


artist ホングウ セラさん


reviewer 藤一紀さん


reviewer 水野英一さん


poet メビウスリング詩人会勉強会


poet 僻猫さん


artist 美々婆々さん


poet カニエ・ナハさん


ミュージシャンのお部屋★


hiroyuki


森 ミキ


編集室★


ブックマーク★


Home


room 1 企画


room 2


box 1 ✔


box 2 ✔


box 3 ✔


box 4 ✔


box 5


pro1 陽気なこまどり


pro2 coffee


pro3 花のやうに


pro4


pro5 


PBook 1


PBook 2


PBook 3


PBook 4


PBook 5 ✔✔


PBook 6


PBook 7


PBook 8


PBook 9


PBook 10


PBook 11


PBook 12


PBook 13 ✔


PBook 14


PBook 15


長編詩投稿サイト


日本人 カモメ7440


水深九十八メートルの夜



月舞の宴 (コメント付)


1~71行詩


今日の写真詩:詩文by塚元寛一


No.1


作品


十一次元の詩人たちへ


青いレモン


『青いレモン』の前駆詩


古井戸の底に浮かぶ


オリジナル意訳1    by塚元寛一


オリジナル意訳2


オリジナル意訳3


オリジナル意訳4


オ意ロートレアモン1


オ意ロートレアモン2


オ意ロートレアモン3


オ意ロートレアモン4


オ意ロートレアモン5


写真詩詩文控え1   by 塚元寛一


写真詩詩文控え2


写真詩詩文控え3


写真詩詩文控え4


写真詩詩文控え5


写真詩詩文控え6


ひろやすさん写真詩詩文控え1 by 塚元寛一


ひろやすさん詩文控2


ひろやすさん詩文控3


ひろやすさん詩文控4


ひろやすさん詩文控5


wa!ひろさん写真詩詩文控え1 by 塚元寛一


wa!ひろさん詩文控2


wa!ひろさん詩文控3


wa!ひろさん詩文控4


イラスト詩文控え1  by 塚元寛一


イラスト詩詩文控2


イラスト詩詩文控3



© Rakuten Group, Inc.